FT夢

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ギルドに備え付けられているシャワールームで身体を洗い流しながら、私は既に遅い後悔をしていた。

ラクサスとミストガンに加え、アイリスさえも姿がない。

そんな中、マスターを守れるのは私だけだと言うのに!




(あの時…私がついていれば…)




魔力を奪われ苦しそうに呻くマスターの姿が、脳裏に焼き付いて離れない。

情けない。

無力で浅はかな自分を強く呪った。


自責の念に押しつぶされそうになる私の思考を遮ったのは、凄まじい地響きだった。

ズゥン、と更に音の大きさを増すそれは、此処が地下だということを差し引いても凄い大きさだ。



濡れた髪を乾かす事も、その身を拭う時間すら惜しくて、私はタオル一枚に身を包んで外に出た。

直ぐに、地響きの正体が分かった。


建物が、動いていたのだ。

計6本の脚を動かし、、蜘蛛のように此方に向かっている。

その建物の屋根には、


幽鬼の支配者のギルドマークがある旗が、掲げられていた。




「想定外だ…こんな方法で攻めてくるなとは…」

「ど…どうする!!?」




慌てる皆に、私は何も言えなかった。

私がしっかりしなければ。

ちゃんと指示を、そう思えば思うほど、喉からは声ではなく息のみが吐き出された。


やがて動きを止めた建物の一部が変形し、大砲のようなものが姿を現した。

中心の射出する筒の奥に光が集まり始めたのを見て、ようやくハッとした。




「マズイ!!!!全員ふせろォオォ!!!!」




大砲…魔導集束砲に集まる光がどんどん量を増すのを見て、私は皆の前へと走る。


ギルドを守らなければ。

皆を、仲間を守らなければ。


タオルから手を離すと、そのまま手持ちの鎧で最も防御力の高い金剛の鎧へと換装した。




「ギルドはやらせん!!!!」


「金剛の鎧!!!」

「まさか受けとめるつもりじゃ……」

「よせ!!!エルザ!!!死んじまうぞ!!!」


ふせろォオ!!!!!




皆の不安の声を掻き消すよう、私は声を張り上げた。

そんなことは百も承知だ。

私が受け止めても、その過程で私の身体が消し飛べばギルドも皆も消し飛ぶ。

リスクは大きいが、今の私はこれに賭けるしか、なかった。


覚悟を決めキッと魔導集束砲を睨み付けた。

数秒後に射出された光。

それに身体が包まれた瞬間、焼けるような痛みが全身に走った。


痛い事が嬉しくもあった。

まだ、私の身体は残っている。

まだ、ギルドを守る力が、ある。




「ぐああああっ」

「エルザー!!!、エルザ!!!」




ナツが私を何度も呼ぶ声が聞こえる。

やがて鎧が四肢が引き裂かれる痛みに足の先を踏み入れた時だった。


私の前に、人影が現れた。

皆を庇って前へ出た私より更に前に、誰かが立ったのだ。




バチィィイイィイイィ!!!!!




鼓膜が破れるかと思うくらいの――電撃音。

誰かを、確認するまでもなかった。

その人物が自らの雷の魔法で魔導集束砲を爆散させた後、私の身体は衝撃で後方へと吹っ飛ばされる。

地面に転がりながら、視線だけで彼女を見た。




『っは…間に、合った…みたい、だね…』




苦しそうに呼吸を繰り返す彼女――

アイリスの右腕から、夥しい量の血液が流れていた。


理由は簡単だった。

何せ、アイリスは右腕がなかったからだ。

先程の衝撃で、と、考えるまでもなく悟った。

衝撃で消し飛んだのだと。

文字通り、消えたと。

この少女は、自らの右腕を捨ててまでギルドを、




『遅く…な、て…ゴメン…』




きっと皆が思っていただろう。

アイリスは、一体何を謝っているのだと。

ボタボタなんて生易しいものではなく、バシャッとまるでバケツをひっくり返したような水音を立てて、アイリスの腕――正確には肩の辺り――から血が溢れた。




『あぁ、…っは、痛すぎて痛覚イッてくれて、…よかった…はぁ、っ』

「っ、アイリスッ!!!」




ナツに身体を支えられ、アイリスの姿を見ていた。

それは私以外の皆もそうで――驚きと恐怖で、誰も動けない。

そんな中、グレイが、彼女の名を強く呼んだ。

彼の顔を見て安心したのか、最後に美しく微笑んで、アイリスの膝はガクリと折れその場に倒れた。

グレイがその身体を必死に抱き締め、右腕の止血を図ろうとするも、正直…それは、不可能だと思った。




《マカロフ…そしてエルザ、アイリスも戦闘不能》




絶望とも呼べる状況だった。

マスターがいない事で空いた穴からどんどん広がり、私達の戦力は大幅に削られた。




《ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐだ》


「ふざけんな!!!」

「仲間を敵にさしだすギルドがどこにある!!!」

「ルーシィは渡さねえ!!!」

「帰れ!!!」


《渡せ》




再度言葉を重ねた、幽鬼の支配者のマスター、ジョゼ。

これだけ仲間を傷つけ、まだ奪うというのか。

信じられない言葉に、怒りが生まれる中、視界の端でルーシィが身体を震わせている姿が目に入る。

俯いて表情を曇らせるルーシィに、自分のせいで、そう、思わないで欲しいと願い、

彼女の曇りを晴らすかのよう、私は叫んだ。




仲間を売るくらいなら死んだ方がマシだっ!!!!!!

オレたちの答えは何があっても変わらねえっ!!!!!おまえ等をぶっ潰してやる!!!!!




ナツも続けて、大きく叫ぶ、

沸き上がる喚声。

ハッタリなどでは、決してなかった。


アイリスの呻く声が聞こえ目を向けると、事情を全くと言っていい程知らない彼女が、

残っている左腕で拳をつくり、ゆっくりと天に向け突き上げた。

――いつも袖に覆われている左腕は、ただでさえ色白の肌のアイリスでも差が分かる程に、透き通る白だった。

巻かれた包帯との境目が、曖昧になりそうな程に。




『ッは…耳ン中かっぽじってよく聴きなよォ!!!

あたし達はお前達をブッ飛ばす――

何回も何十回も何百回、何千回でもだァ!!


妖精の尻尾に手ェ出した事を後悔させたげるよ―――っ』




声を張り上げたアイリスは、極めて強気で熱があって、それでも、何処か冷ややかにそう言った。

そこまで言い切ると、彼女は激しく咳き込み苦しみ始めた。

髪を掻き乱し、吐き出した血液は身体を支えるグレイにまで飛沫が飛ぶ。

全員が息を呑み、その場に嘔吐する者もいた。




《ならばさらに特大のジュピターをくらわせてやる!!!!装填までの15分、恐怖の中であがけ!!!!》




ジョゼの言葉に唇を噛むも、そこで意識が遠ざかっていく。

全身の痛みよりも悔しさが勝ったまま、私は目を閉じた。



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