FT夢

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その日の晩は悪魔の宴という事で、村でどんちゃん騒ぎをするらしい。

誘われたので折角だし、とあたし達もそれに参加させてもらった。

普段9時には眠くなる体質のあたしだが、アルコールが入ったせいが、あまり、眠くない。


宴の中心から少し離れ、あたしは民家の壁に身を預けて遠巻きに様子を見ていた。

燃え上がる炎を食べて村人を驚かせてるナツに、自然と口角が緩む。


既に何杯目か知れぬ酒を飲み干すと、口元を拭って空を見上げた。

輝く星を指先で繋ぐも、星座の名前は思い出せない。




『――――』

「こんなとこにいたのか、アイリス」

『…知ってるだろ?苦手なんだよ、人混み』

「人は少ねェけどな」

『…………』


「隣、いいか?」

『勿論』




抱えていたグラスを小脇に置き、あたしはグレイと並んで宴を見ていた。

何も話す事無く、ただ、時間がやけに遅く感じる。




「なぁ、アイリス」

『…なに』

「オレさ、アイリスがチームでよかったと思ってんだ」


『……急にどうした』

「二年前お前がいなくなって…オレは自分がどれだけ無力なのか思い知ったよ」

『そんなのお互い様だよ。あたしだって1人じゃ空回ってばっか』


「挙げ句、自分の命を安く使いかけた」

『……』

「自分一人の命じゃねえってのによ」




宴の声が、音が、全て遠くに聞こえた。

いつの間にかあたしの手に重ねられたグレイの手は、暖かくて。




「…悪かった」

『…約束破った』

「ん?」



「わ、悪かったよ……」

『……ホントにそう思ってる?』


「…あぁ」

『その言葉が嘘なら、今度こそ殴ったげる――殺したげる』




『はい、ダウト』

「……まぁ、殴られる覚悟はしてたよ」




そう言いながら、グレイの額には冷や汗が浮かんでいる。

殺す、とまで言った(スラングだから多少意味は違う)が、正直、今はあたしの隣にいてくれるだけで十分だ。


でも、まぁ…

折角覚悟してきてくれたようだし?あたしは殴ってあげようと思った。




『……グレイくんさぁ』

「キズんとこは殴るなよ!って、ん?」

『あたしのちゅーの暗号(?)ってまだ覚えてる?』

「え?あぁ、まー…一通りは」


『なら問題ないよね』

「?アイリス―――」




何かを言い掛けた彼の口を塞ぐよう、あたしはキスをした。

驚愕に目を見開くグレイを無視し、彼にだけ伝わる言葉を紡ぐ。



下唇を柔らかく噛んで、怒っていた事を伝え

鼻の頭に口付けよかったと安堵を伝え

頬に口付けて――二年振りの再開の時もした――ただいまを伝えた。



グレイはされるがままだったが、やがて身体を離して酒のお代わりを貰いに行こうとしたあたしの腕を掴み、

ぐい、とあたしを引き寄せた。


座ったままのグレイに抱え込まれるよう抱き締められきょとんとするあたしの額に、グレイは触れるだけのキスをした。

“お帰り”だった。




『……もう一つあった』

「な、なんだよ…またキスすんのか?」

『ううん、ちゃんと口で言う』



貴方が相棒でよかったです、と。



(悪魔が悪いと誰が決めた?)

(実際、そう怯える必要はないから)

(手を伸ばせば、ホラ、)


⇒あとがき

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