FT夢

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「アイリス。いつまで入ってんだ」

『……グレイ?』

「そうだ。オラ、手ェ伸ばせ」




眠い目を擦りつつ、地上からグレイが差し出す手に掴まる。

ぐいっと引き上げられ、あたしは新鮮な空気にありついた。


……前回何処まで進んだんだっけ。

エルザが問題発言した辺り?




「エルザが月を壊すって言ってるけど、本当なの?」

『うん?』

「アイリスはもう答えが分かってるんでしょ?」


『月を壊す…んー…』




合っているような合ってないような。

ルーシィの問い掛けに答える事無く、あたしは村の矢倉に登った二人を見上げた。

エルザが換装したのは巨人の鎧。投擲力を上げる鎧だ。

手に持つ槍の名前は出ないが、恐らくあれを投げた時のブーストを使う為にナツを呼んだのだろう。

それにしても二人ともノリノリである。




「二人とも何であんなにノリノリなんだよ…」

「まさか、本当に月が壊れたりしないよね…」

『あっはっはー。あたしはエルザならやっちゃうと思うナァ』




槍を持った右手を、大きく振りかぶる。




「ナツ!!!」

「おぉう!!!!」




それに合わせ、ナツが石突きを殴った。

火力でブーストされたそれは一直線に空へと吸い込まれ、




「届けェェえええええっ!!!!」



やがて、月が、


空が、割れた。




「どうなってんだ!!!コレぁ!!!」

「この島は、邪気の膜で覆われていたんだ」

「膜?」


「月の雫によって発生した排気ガスだと思えばいい。それが結晶化して、そらに膜をはっていたんだ。

その為、月は紫に見えていたという訳だ」




エルザの言葉通り、見上げた月は白雪のような輝きを取り戻している。

途端に、あたし達の周囲の村人の身体が、その月にもにた輝きを放ち始めた。

余りの眩しさに目を細め、数秒後、光が収まったのを感じて前を見た。

村人に、変化は、ない。




「元に戻らねえのか…?」

「そんな…」

「いや…これで元通りなんだ」

『よかったね。これで帰れるヨ』


「邪気の膜は彼等の姿ではなく、彼等の記憶を冒していたのだ」

「記憶?」


「“夜になると悪魔になってしまう”…という間違った記憶だ」




未だピンとこないナツに苦笑しつつ、隣のルーシィを見た。

薄々感付き始めた彼女は微かに震えている。

矢倉のエルザと目が合い、微笑み彼女にあたしは頷いた。




『彼等は元々悪魔だったんだよ』




あたしの一言に、ルーシィは絶叫しながら膝を着いた。

記憶を取り戻した村人達でさえ混乱しているようで、今の状況を呑み込めていないようだった。




「彼等は、人間に変身する力を持っていた。その人間に変身している自分を、本来の姿だと思い込んでしまったのだ。

それが、月の雫による記憶障害」


「でも…それじゃあリオンたちは何で平気だったの?」

『人間だからね』

「!アイリス、」

『記憶障害の対象は悪魔だけダヨ。村人が遺蹟に辿り着けないのも、聖域である遺蹟が悪魔を拒んだんだ』


「さすがだ……君たちにまかせてよかった」




背後から聞こえた声に、あたし達は視線をやる。

外套を風になびかせ手を振るその姿には見覚えが…ない。

でも、雰囲気、声と匂いには覚えがあった。

ガルナに来る時―――あたし達を運んだ船乗りのボボさんその人だった。

確か村で殺され、幽霊と認識していたのだが…




「胸を刺されたくれェじゃ、悪魔(オレたち)は死なねェだろうがよ」




愉快そうに笑う彼に、あたし達は愚か村の人も呆然としていた。

あぁ、そうなんだ…何はともあれ、生きていたことは喜ばしい事だ。

「あ…あんた、船の上から消えたろ…」未だ目の前の出来事を疑っているのか、グレイが震えた声で訊く。

次の瞬間、ボボさんは視界から消え、頭上から声が聞こえた。

見上げれば羽をばさばさと動かして浮かぶ彼の姿が。




「あの時は本当の事が言えなくてすまなかった」

「おおっ」

『飛べるんだー』


「オレは一人だけ記憶が戻っちまって、この島を離れてたんだ。自分たちを人間だと思い込んでる村のみんなが、怖くて怖くて」

「ボボー!!!!」




今まで涙を浮かべてボボさんを見ていた村長殿だったが、息子の姿をしかと認識すると、同じように翼を広げて宙へと飛んだ。

息子を抱き締め泣き出した彼に、くすりと笑みが零れた。




「やっと正気に戻ったな、親父」




やがて他の村人も空へ飛び立ち、皆が笑って今この時を喜んでいた。




「ふふ…悪魔の島……か」

「でもよ…みんなの顔見てっと…

悪魔ってより、天使みてーだな」




あたしはグレイの隣で拳を作り、彼を見つめる。

何も言うことなく、彼はそれに自らの拳をコツンとぶつけた。

S級クエストは、一先ず此れにて終了した。


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