FT夢

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「また遺蹟が震えてやがる…」

「月の雫の儀式が始まったのだ。デリオラの氷が溶けはじめている」

「(ウル…が…)」


「どうやらここまでだな。おまえたちには止められなかった。

オレはこの時をどれだけ待っていた事か。

10年間仲間を集め、知識を集め、ようやくこの島の事を知った」




月の光を集める島、ガルナ。

この島は呪われているというレッテルばかりが目立って、月の雫の話はあまり表立ってはいなくて。

あたしが見つけた月の雫を読んだ魔導書も、埃が被っていた。

人は、短所ばかりに目が、行く。




「オレたちはブラーゴからデリオラを運び出した。それが3年前だ」




リオンの氷がグレイを襲う。

鳥の形を模したそれの鋭い嘴が彼の身体を掠めた。

苦し紛れにそれを砕くと、キッとリオンを睨み付けた。




「こんなくだらねえ事を3年もやってたのか」


「くだらんだと?

この10年間、ギルドで道楽してた奴がよく言えたものだな!!!」




グレイに向かう氷が力を、量を増した。

本当は、リオンも気が付いているのかもしれない。

自分のやっていることが間違っていると。

それでも…10年分の自分を、否定することは出来なかった。

両腕で氷を防いだグレイは、額に汗を浮かべながら言葉を繋げた。




「オレはウルの言葉を信じただけさ」




「西の国へ行けば、私より強い魔導士は山ほどいる」




「そこでたどり着いたのが、妖精の尻尾だ。

確かにすげえ魔導士が山ほどいた。信じられなかったよ」






「無駄じゃろうな。絶対氷結は、術者の意志の魔法。

第三者のいかなる魔法をもってしても、その氷は溶かす事はできん」

「そんな…だって、ここにはすげー魔導士がたくさんいるじゃないか」

「一つだけ…手がない事もないが…」

「!」

「いや…待て、それはダメじゃ。

氷を溶かすとは、そのウルとやらを殺すのに等しいのじゃぞ」







「―――今思えば、あの時じーさんが言おうとしてた事が月の雫の事だったんだろうな。

まさかそんなウルを殺すような事を、兄弟子がやってたと思うとガッカリだよ」


「何とでも言うがいい…オレはこの日の為に生きてきた」

『どうして力の使い方を間違える?』

「!」

『その魔法を教えたのは誰?短い間とは言え、育ててくれたのは、誰?

…恩師に牙を剥くなんて吐き気がするね』




あたしはリオンに対して、強く毒を吐いた。

同じように師匠ある身として、聞き捨てならない事ばかり言う彼に腹が立ってきた。

まぁ、あたしの師匠はまだ健在だけど。




「関係のない奴は黙っていろ」

『関係の、ない?』

「これはオレと、グレイの問題だ」




リオンの言葉に、ピクリと身体が反応する。

此処まで人を巻き込んでおいて…関係がないと言われるのは筋違いだ。


言うや否や、リオンは地面を強く蹴って駆け出した。

右手で獣の氷を生み出し、グレイに向かって放つ。




「師が死んだ今、残された弟子は何をもって師を超えられるかよーく考えてみろ!!!!

デリオラだ!!!師が唯一倒せなかったデリオラを葬る事で、オレは師を超える!!!」


「その向上心は立派なものだが、おまえは途中で道を間違えてる事に気がついてねえ。

何も見えてねえ奴がウルに勝つだと?

100年早ェよ、出直してこい!!!!




砕けては生まれ、砕けては造られ。

グレイの生み出した氷の刃がリオンを捕える。

ところが、リオンの身体は氷となって砕けた。

―――偽物!


突然の事で不意をつかれたグレイの背後で、リオンが構えた。

あたしとの戦いで数回姿を見せた虎の形のそれが、グレイを襲う。

その動作は、相変わらず片手。




『後ろだ!!!』

「っ、アイスメイク“牢獄プリズン”!!!!」




あたしが無我夢中で叫ぶと、グレイは僅かに表情を歪ませて防御の体勢をとった。

リオンの生み出した氷は、グレイの造った牢に閉じ込められる。

牢の中で空回るその姿は、まるで、




「これはおまえの姿か、リオン。世界を知らない哀れな猛獣だ」

「くだらん!!!!貴様の造形魔法なづふっ壊…」

『無駄ダヨ』

「……!!!」


『「片手での造形は、バランスが悪い。だから、肝心な時に力が出せねえ(ない)」』




造形魔法の、基本中の基本。

あたしとグレイの声が重なった。

言いながらリオンの目の前に跳躍したグレイは、




「“氷雪砲アイズキャノン”!!!」

「ぐぉおあぁぁあああああぁぁあああ!!!」

「ウルの、教えだろ」




氷の大砲を放つ。

作用反作用の関係に習って後ろに倒れそうになるグレイに駆け寄り、咄嗟に支えた。

視線だけを此方に向け、グレイは優しく微笑む。

……おわった。


グレイの大技を喰らったリオンは数秒衝撃に身を震わせ、やがて、倒れた。

それを見ると、二人同時に溜息を吐いた。




『……お疲れ様です』

「あぁ…!!!いっ、」

『!?どうし…』

「…ってぇ〜…!!!」




脇腹を抱えてしゃがみこむグレイの肩を抱き、手元を見る。

そこからは血が勢いよく溢れていて――リオンに刺された傷だ――見るに堪えなかった。

張り詰めていた糸が切れた今、突然痛みだしたのだろう。




『…それだけ深いと、小一時間程かかるけど、』

「っ、ば、バカ!!顔寄せんな!!すぐ舐めるな!!」

『ホワイ?』

「(小一時間も理性と格闘するなんざ出来るか!!)」

『…グレイ?』

「じ、自分で止血すっから…」




身を屈めて脇腹を舐め…じゃない、治療しようとした矢先にグレイに止められた。

自分で、との言葉通り、彼は自らの氷で患部を凍らせ止血した。


これで帰れる、そう安堵した矢先だった。

木々が、騒めいて―――





――――オオオオオオ…





大気が、震えた。




『グレイ…』

「こ…この声…忘れようがねえ…」




凄まじい、轟音…声は、やはりデリオラのソレだったらしい。

無意識に彼の手を握ると、駆け足な鼓動が直に伝わって。

自然と、自身の呼吸が短くなった。



(この手を離してなるものかと、)

120430

 

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