FT夢

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グレイは、絶対氷結を発動させようとした。

それを、先程まであたしの隣で同じようにグレイの魔力から起こる圧力に耐えていたナツが拳で制した。

途端に消える力。

自由になった身体からは、抗おうとしていた力が一気に抜けた。

殴られたにも関わらず、グレイは何処か呆然としていた。




「ナツ…」

「勝手に出てきて、責任だなんだうるせぇんだよ。人の獲物とるんじゃねえよ」




ナツの場違いなセリフに、一瞬あたしもぽかんとした。

それが彼の思いやりと分かって、直ぐにフッと息を吐いた。




「オレにケジメつけさせてくれって言ったじゃねーか!!!」

「“はい了解しました”って、オレが言ったかよ」

「てめ…」

「お?やんのか?」


「あいつとの決着はオレがつけなきゃならねえんだよ!!!」




死ぬ覚悟だってできてると、グレイは声を荒げた。

珍しく落ち着いているナツは、自らのマフラーを掴むグレイの腕を掴むと、

表情を、空気を変えた。




「死ぬ事が決着かよ、あ?

逃げてんじゃねえぞ、コラ


「っ、けど、」

「…お前がいなくなって一番悲しむのは誰だ」

「!」

「死ぬなんて余計な事考える前に、それを考えろ!!!」




グレイの視線が、情けなくぺたんと座るあたしに向けられた。

視界が霞む。

頬にこそばゆい感覚を、感じた。


あたしは―――泣いていた。




「…アイリス」

「アイリスを泣かせるのは許さねえ。アイツに寂しい思いをさせるのは許さねえ」

『…グレ、イ、…』




あたしを、一人にしないで。

もう、誰も失いたくないの。




「――リサーナが死んだ時のアイリスを、俺は二度と見たくねぇ」




ナツは最後に、あたしには聞こえない大きさで何かを呟いた。


自分が、とても情けない。


ごしごしと目元を拭うと、直後、足元が大きく揺れた。

否、違う。

この遺跡そのものが、大きく揺れている。


状況が飲み込めないまましばらく経ち、やがて、その揺れはおさまった。

立ち上がった時、さっきまでの不安定さは感じなくなっていて

遺蹟は、地面と平行に。




『傾いてたのが…直ったみたいだね』

「ど…どーなってんだ!!?」

「こ…これじゃ、月の光がまたデリオラに…」


「おとりこみ中失礼」




ひょっこりと顔を出したのは変装したウルティア――ザルティと呼ばれてたかな――だった。

ああ、そうか。彼女(?)が魔法で…

時のアークという失われた魔法を使う彼女にとって、元の状態に戻すのは至極簡単だろう。

が、あれだけ必死に壊した遺跡をそう簡単に戻されたのが気に入らなかったらしい。




「オレがあれだけ苦労して傾かせたのに…どうやって元に戻した!!?」

「ほっほっほっ」


「どうやって戻したーっ!!!!」




ナツが声を荒げて、ザルティに問う。

が、彼女は呑気にも笑うだけだ。

挙げ句の果てにはナツを無視して月の雫の儀式に戻ろうとする。


これにはナツの堪忍袋も切れたようで。(まあ元々短期だけどネ)




「上等じゃねえかナマハゲがぁ!!!!」

「ほっほっほっ」

「待てやコらー!!!」

「ナツ!!」

『あらら』




逃げるザルティを追い掛けようと走りだしたナツは、この部屋から出る直前で此方に目を向けた。




「オレはあのクソッタレを100万回ぶっとばす!!!!こっちはおまえとアイリスにまかせるぞ!!!!」

『……了解だよナツくん』




グレイに目をやると、彼もこくりと頷いていた。


…昔。本当に昔の話だが、私はナツとグレイと本気で喧嘩をした事があった。

ババ抜きで誰が一番強いかを決める際に、あたしがイカサマしただのなんだの言って…

…いや、してたんだけど。

当時は皆子供だった。だから、あたしもつい『してない』なんて頑固になって。

戯れ合うのではなく、本気の喧嘩。

三人とも、大怪我だった。




「負けたままじゃ名折れだろ?」




あの日、誓った。

…実際はエルザと――リサーナに誓わされたんだけど。

あたし達は勝負事には誠実であると。

そして互いを疑わないと。




「オメーのじゃねえぞ」

「わかってる」

『クク…



妖精の尻尾のだろ?』
「「妖精の尻尾のだ!!!」」





絆は、深く。

長い歳月を経ても何も変わっていない。

あの頃と同じく、あたし達は馬鹿で無鉄砲なガキで―――

最高の、仲間。



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