FT夢
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『…成る程、ね』
「……」
『いい人だね、ウルさん』
走りながら…荒い呼吸の中、あたしは途切れつつもそう言葉を述べた。
リオンの匂い――というか、ほぼ彼の魔力――を追って、あたし達は走っていた。
後ろを振り返る気は、なかった。
エルザ達が、いる。
『そういや、あたしグレイと腹割って話したことなかったもんネ』
「そういや…俺もアイリスの昔の事とか知らねえな」
『クク…よく相棒なんてやってたよねェ、あたしたち』
場違いにも関わらず緊張感のないあたしの声に、グレイは溜息を吐いた。
遺蹟の奥を目指しつつ、昔話の続きを聞いた。
その内容は、単純なようで複雑だった。
師に背き、自ら悪魔に挑んだグレイ。
浅はかな知恵で、身を滅ぼしかけたリオン。
そんな二人を
愛する弟子を守ったウルさん。
リオンを少なからず邪険にしていたあたしだったが、一概に彼が悪かったとは言えなさそうだ。
グレイにも非は、ある…が。
それはそれ。
これはこれ、だ。
言うなれば、それは過去のオハナシ。
未来への歩み方は、間違いなくグレイの勝ち。(…何の勝負かはあたしも知らないけど)
『……お』
「……此処か」
『うん、多分。…入れる?』
辿り着いたそこには、入れないようにする為か、もしくは出られないようにする為か、氷の壁が行く手を阻んでいた。
なんなら手伝おうか迷っていると、グレイは自ら、その氷に力を込めた。
数度打撃を繰り返し。
ようやく、それは割れた。
そこにはリオンとバトっている最中であろうナツくんの姿もあった。
「ナツ…こいつとのケジメは、オレにつけさせてくれ」
「!」
『……ほう』
「てめえ!!!一回負けてんじゃねーか!!!」
「次はねえからよ。
これで、決着だ」
その言葉に納得したのか、ナツはそれ以上何も言わなかった。
リオンと正面になるように立ったグレイ。
あたしも、少し大人しく見守ろう。
まだ、大丈夫だから。
「10年前…ウルが“死んだ”のは、オレのせいだ。
だが…仲間をキズつけ…村をキズつけ…
あの氷を溶かそうとするオマエだけは許さねえ」
「仲間?それにはそこにいる化け物も含まれているのか?」
『!』
唐突に自分のこと(化け物と自覚しているのには苦笑いだ)を出され、不覚にも、驚きが表情に出てしまった。
このタイミングでバラされるのは勘弁だよ、本当に…
もしかして、リオンはグレイやナツが、既にあたしの身体の事を知っていると思ってるのだろうか?
「よくこんな奴といてマトモでいられるな。オレならば耐えられん」
『……その言葉、そっくり帰してやるよ。お前みたいなのが兄弟子のグレイには同情しちゃうヨ』
「アイリスを悪く言うのは許さねえぞ!!」
『ありがと、ナツ…でも、』
強がることは出来ても、彼の言葉を否定する事は出来なかった。
あたしは…人間を捨てたんだ。
もうずっと昔に。
“アイリス”
“私は、貴女を―――”
自分の為に、大切な人を裏切った。
人間以下、化け物以下のあたし。
「……アイリス」
『早くしなよグレイ…あたしだってソイツに借りが、』
「悪い」
唐突に。
脈絡もなく、グレイはあたしに謝った。
仕事の待ち合わせ。約束の時間。
それを5分ばかり遅れて到着したときのように、軽い声で言う、それを、
(どうして)
そんなに悲しい顔で言うの?
「共に“罰”を受けるんだ、リオン」
低く、落ち着いた声音。
冷静すぎるグレイの表情。
不安になる要素は何一つないのに。
嗚呼、どうして…
その構え一つで、酷くあたしを不安にさせる?
(誰かの心臓の音が、)
(聞こえた気が、した)
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