FT夢

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風が、吹く。

海風が潮の香りをあたしの鼻腔に伝えると、頭の中に魚が泳ぎ始めて。

よく考えれば、昨晩から何も口にしていない。

……お腹空いたなあ。




「リオンは、昔からウルを超える事だけを目標にしてきた。

だから、そのウルがいなくなった今。

ウルの倒せなかったデリオラを倒す事で、ウルを超えようとしている」


グレイが、ポツリポツリと言葉を漏らしていく。

兄弟子であるリオンの話。

彼の過去の話。

当然、グレイの過去の話。




「そっか…死んだ人を追い越すには、その方法しか……」

「いや…あいつは知らないんだ」

「え?」

「確かに、ウルはオレたちの前からいなくなった。だけど…



ウルは、まだ生きている」



「ええっ!!!?」

『!?』

「どういう事だ?一体過去に、何があった」







「10年前。

オレの住んでいた街がデリオラに襲われた。

壊滅するまで、1日とかからなかった。


オレは偶然通りかかったウルたちに助けられた」




「造形魔法は“自由”の魔法だ」

「造りだす形は十人十色」

「術者の個性が、最も出る魔法だ」


「精進せよ」

「そして己の“形”を見つけ出せ」





語られる、修業の日々。

ウルさん―――師との思い出。




「オレは父ちゃんと母ちゃんの仇をとるんだ!!!!何か文句あんのかよ!!!!」

「出て行けば破門にする!!!」

「ああ……せいせいするよ!!!」


「グレイ!!!」

「オレが死んだら―――もっと強い魔法を教えてくれなかったアンタを、恨む」







幼いながらに決意した思い。

父母を失い、街を、幸せを壊した悪魔。




『だから、』




グレイはデリオラを憎み。

同時に、恐れていたのか。


走ったお陰か、遺跡の前にはすぐ辿り着いた。

正直、自分でも体力はないと自覚しているあたし。

膝に手をついて肩で呼吸を繰り返していたが、ふと、顔を上げた。




『……ん?』

「遺跡が…傾いて…る?」

「どうなってんだー!!?」

「ナツだな」


『うん、まぁ…こんなデタラメしでかすのはあのコだけだね』

「狙ったのか偶然か…どちらにせよ、これで月の光はデリオラに当たらねえ」


「待て!!誰かいる、」




がさがさと物音に反応し、咄嗟にあたし達は身構えた。

気配を消さないところを見ると…素人なのだろう。何の素人かは分からないけど。


茂みをかき分け顔を出したのは、外套やらマスクやらで身体を覆う、昨晩遺跡で儀式を行っていた連中だった。

1人1人は大した事なさそうだが、如何せん、数が多い。

皆がこの距離にいては、あたしの魔法は危険だ。

直前で足止めをくらい、うんざりしながら手を構え、




「行け」

「!」

『む』

「ここは私にまかせろ」




ソレなんてフラグ―――じゃない、

エルザはあたし達の前に出て、ぞろぞろと現れた敵に正面から対峙した。

「リオンとの決着をつけてこい」それはグレイへのセリフだろうが、今のあたしにも当てはまる。

引き分け……そう言いたいが、実質逃げたあたしの負けのようなものだ。


エルザに向けてこくんと頷いたグレイの瞳には迷いがなかった。

それからあたしと目線を合わせ、今度はあたしと同時に頷いた。

あたし達は、再び走り始めた


止めなければいけないと。

あたしは一人言い訳のように呟いた。




『もし…最悪の事態になっても』




グレイの…彼の綺麗な手は汚させない。



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