FT夢

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目が覚めたのは朝で、外からは鳥の囀りも聞こえた。

まるでいつもの寝起きのような気分で上半身を起こすと、身体に痛みが走る。

そう言えば、オレ……




「!」




首を動かすと、すぐ傍で身体を丸めて座るアイリスの姿があった。

規則正しい寝息を小さくたてるアイリスの髪に触れると、ゆっくりと瞼が持ち上がる。

寝呆け色の碧眼はオレを視界に捉え、僅かに細まった。

『おはよ』なんて何気ない言葉に、此処まで安心感を持ったのは初めてだった。




『もう動けるんだ…伸び盛りの男は違うね』

「あ、あぁ……」


『ねェ、グレイ』

「ん」

『一発殴らせなよ』




アイリスからの唐突な要求に驚いた上、それはおいそれと了承出来る内容じゃなかった。

長い付き合いだ。大体分かる。

顔は穏やかだが、アイリスは確実に起こっている。




「な、ちょ待てって!!」

『返事は聴かない。歯ァ食い縛って

「…わ、悪かったよ」

『……ホントにそう思ってる?』


「―――あぁ」

『その言葉が嘘なら、今度こそ殴ったげる…殺したげる』




どうやら相当怒ってるらしい。

このオヒメサマに、どうご機嫌を直してもらおうか…

そんな事を苦笑気味に考えていると、先にアイリスが先に動いた。

のろのろとオレに近づいたかと思えば、手を取って自らの頬に寄せた。

指先に、手の甲に感じる、暖かいアイリス。




『死ななくてよかった』




大袈裟だろうと思うその言葉だが、アイリスは心から言ってくれたらしい。

愛惜しむように手に頬擦りされ、思わず顔が熱くなる。


と、アイリスは俺の指先に出来た数ヶ所の傷を怪訝そうに見た。

チラリとオレを一瞥した後、そのまま指に目を戻し、


ぱくりと。

口に含んだ。人差し指を。




「っ、アイリスやめっ、」

『ん…へひゃひーふぁ…ひゃはっえひゃぉ…(怪我人は黙ってなよ)』




唾液を絡められ、弱く吸われて…舌が触れる。

触れる度に微弱な電流を感じて、痺れていった。

ただ指を舐められているだけなのに、妙に緊張してしまっていて。

時折此方を見る真っ赤な顔のアイリスに、オレは肩に力が入った。

正直――このまま続けられると――理性がブッ飛びそうだ。




「ぐ…っ、」

『…、…ん…、』




むず痒い感触と戦いながら、オレはアイリスから目を逸らした。

コイツの、こういうところは反則だ。




『…ん、はぁっ……終わったヨ』

「ば、バカヤロー…っ」

『……治したげたのに、それはないんじゃないの?』

(いちいち顔がエロいんだよ!!!)




オレの指にあった傷は綺麗に塞がり、血の跡さえない。

ガキの頃に転んだ時とかは、こうやってよく治療(という名のセクハラ)をされていた。

してもらうのは―――随分久し振りだ。


自分の唾液に濡れるオレの指をリボンで拭うと、先に立ち上がり、




『それじゃあ行こうか』

「? 何処にだ?」

『それは着いてからのお楽しみだよ』



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