FT夢

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「何だよ、とっつかまえていろ聞き出せばよかったんだ」

『待ってナツ…』

「まだよ。もう少し様子を見ましょ」

「……」




頭の中で思考が交差する。


あの造形魔導士は…あたしの事を「デリオラと変わらぬ化け物」だと言った。

名前まで知っているとなると、思い付きで解除にあたっているとは思いがたい。

尚且つ、その口振りからは恨みや妬みが含まれていた…

恨んでいるモノをわざわざ放って…何をする?




「なーんか、ややこしい事になってきたなァ」

『まったくだよ。…お手上げサ』

「何なんだろうね、あいつ等」


「くそ…あいつ等、デリオラを何のためにこんな所まで持ってきやがった」

『持ってきた?こんな馬鹿デカイのを?』

「つーか、どうやってデリオラの封印場所を見つけたんだ……」

「封印場所?」

「こいつは北の大陸の氷山に封印されていた」
「え?」


「10年前…イスバン地方を荒らしまわった、不死身の悪魔―――


オレに魔法を教えてくれた師匠、ウルが命をかけて封じた悪魔だ」


『!!グレイ、の…?』


「この島の呪いとどう関係してるのかわからねえが……これは、こんな所にあっちゃならねえモノだ」




グレイの拳から、身体から。

さっきの震えとは全く異なる…冷気、怒りが感じてとれた。

グレイが、怒ってる。

グレイを、怒らせた。




「零帝…何者だ…

ウルの何の汚す気なら、ただじゃおかねえぞ!!!!」





グレイの師…ウルが封じた悪魔。

命を、賭して。

絶対氷結。

もしかしなくても、答えは一つだった。

彼の師は―――既に、




『……グレイ』

「…………」


「オマエの師匠が封じた悪魔だァ?」

「ああ…間違いねえ」

「元々北の大陸にあったものが、ここに運ばれた?」

『この大きさを運び出すのに、気付かれなかったってのに驚きだよ』


「もしかして、島の呪いって、この悪魔の影響なのかしらね」

「考えられなくもねえ。この悪魔はまだ生きてるんだしな」

「おし」




何を思ったのか、ナツは「そーゆー事なら」などと言ってデリオラに挑みにかかろうとする。

彼らしい考えと行動力には素直に感心するのだが、ルーシィは呆れ顔で溜息を吐いた。

刹那、グレイの顔色が変わった。

振り返ったかと思えば、そのままナツを強く殴った。




「どぅおっ!!!」

『ナツっ!!!』




鈍い音と共に地面に倒されたナツに駆け寄り、慌てて身体を起こした。

いつもの喧嘩じゃない。

明らかに、度がすぎていた。


シリアスな雰囲気だからといって、やられたままで黙っているナツではない。




「グレイ!!!てめえ…何しやがる!!!」

「火の魔導士がこれに近づくんじゃねえ。氷が溶けてデリオラが動き出したら、誰にも止められねえんだぞ」

(……あたし結構電撃ぶつけてたなあ)

「そんなに簡単に溶けちまうものなのかよ!!!」

「!!!……いや…」




そんな事はない。

代価に人一人必要な魔法が、そんなに簡単に終わってしまう事はありえない。

強気なナツの返しにハッとしたのか、グレイも俯いて口籠もる。




「大丈夫?」

「オイ殴られ損じゃねえか!!!凶暴な奴だな」

「ナツが言う?」

『……平気?ナツ』

「おう。こんなモンくれー」


師匠ウルは、この悪魔に絶対氷結っつー魔法をかけた」




それは溶ける事のない氷。

いかなる爆炎の魔法をもってしても、溶かす事のできなり氷。

グレイは、自分に言い聞かせるようにそう言った。

溶けるハズがないと、溶けないでほしいと、彼の心は告げていた。




「溶かせないと知ってて、なぜこれを持ち出した…?」

「知らないのかもね。何とかして溶かそうとしてるのかも」

「何の為にだよっ!!!」

「し…知りません、けど…」




普段と違うグレイに怯えたのか、少し逃げ腰なルーシィとグレイの間に割って入った。

突然のあたしの行動に驚く二人を余所に、あたしはグレイの腕を取った。

そのままギリリ…と力を込めて握る。




「……何だよ」

『さっきナツを殴ったのは、本気だった。ルーシィにも強く当たって…』

「……」


『動揺してるのは分かるけど、これ以上仲間に当たるって言うなら…

あたしは許さない。例え、相棒でも』

「っ…アイリス、てめえ、」


「ちょ、ちょっと二人共!!今は仲間割れしてる場合じゃないでしょっ!!」




ルーシィの仲裁により、あたしは指先に発動しかけていた雷環投を引っ込めた。

互いに背を向けて、グレイは舌打ちした。

フン、とあたしも不機嫌さを隠す事なく目を細めた。




「くそっ…!!!調子でねえな。誰が何の為にデリオラをここに…」

「簡単だ。さっきの奴等を追えばいい」

「そうね」


「いや、ここで待つんだ」

「!?」

「月が出るまで待つ」

「月…って、まだ昼だぞ!!!無理無理!!!ヒマ死ぬ!!!」

『何か目的があって言ってるのかナ』


「島の呪いもデリオラも、すべては“月”に関係してると思えてならねえ。奴等も、“もうすぐ月の光が集まる”とか言ってたしな」

『ふむ…』




納得するあたし達の中、ナツだけは不服そうに暴れていた。

そんな彼も、暫くすると眠りに落ちた。




「本当…こいつって、本能のままに生きてるのね」

「あい」

『…………』

「…アイリス?」


『何?ルーシィ』

「大丈夫…?凄い汗だけど…」




言われて額に触れると、前髪もべっしょりと濡れ、肌に張り付いている事に気が付いた。

昨晩からあまり寝ていないので、あたしも寝たいんだけど…そんな余裕もない。




『、暑いかなあなんて…ちょっと外行って来る』

「う、うん…気をつけてね」

『ありがとう』




フラフラとする足取りで、あたしは近くの階段を上って行く。

頭が痛い。

吐き気がする。

視界が霞む。

意識が朦朧と、する。

身体が、重い。




「アイリス、大丈夫かな…」

「うん…こんな大きな氷があって、ちょっと寒いくらいなのに」





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