FT夢

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耐え難い眠気。

不思議な香りが鼻をつき、頭の中で何かが瞬く。

ああ、彼が帰って来たのか…そう思いながら、あたしはそれに抗う事なく目を閉じた。



―――誰かが、あたしの髪に触れた。

―――そっと、頭を撫でる大きな手。

―――懐かしむような、慈しむような、


―――謝罪?




『……ミスト、ガン』

「!!」

『眠くて適わないよ…魔法、解いてもらえる?』




気になって、頑張って目を開ける―――お礼も、したかったし。

少し間を開けた後、彼は何も言わずに、あたしの額を指先でコツンとつついた。

途端に消えていく眠気に息を吐く。




『はぁ…ったく』

「まさか自力で解かれるとは思ってなかった」

『こっちだって…二年経ったってのにこんな事してる友人に驚きだよ』




嘲笑すると、ミストガンは困ったように布越しに頬を掻いた。

顔を見せないのも…変わらない。




『貴方のお陰で、あたしは此処に帰ってこれた…礼を言わせて』

「私は何もしていない…ただ、」

『うん?』

「…アイリスは、皆に囲まれてるのが似合う」


『……ありがとさん』




背伸びをして、唯一彼の顔が布で覆われていない目元に口付ける。

抵抗するでもなく、彼はあたしの頭をもう一度撫で、頬に優しく触れた。

背を向け去っていく姿が見えなくなった頃、皆が目を開けはじめた。




「こ…この感じはミストガンか!!?」

「あんにゃろォ!!!」

「相変わらずスゲェ強力な眠りの魔法だ!!!」

「ミストガン?」




ルーシィが語尾を上げ疑問符をつけた声で問い掛ける。

どう説明するか、なんて考えてると、いつの間にか彼女の傍にいたロキが「妖精の尻尾最強の男候補の一人だよ」と言う。

直後、二人とも驚いた顔をした。(同じ意味でかはさておき)




「どういう訳か、誰にも姿を見られたくないらしくて、仕事をとる時はいつも、こうやって全員を眠らせちまうのさ」

「なにそれっ!!!あやしすぎ!!」

「だから、マスター以外誰もミストガンの顔を知らねえんだ」


「いんや……オレは知ってっぞ」




唐突に降ってきた声に、全員が頭上を見上げた。

思わず…肩が跳ねた。

騒つくギルドとは逆に、あたしは俯く。




「もう一人の最強候補だ」

『……ラクサス』

「ミストガンはシャイなんだ。あんまり詮索してやるな」




知ったような口を叩くラクサスに、少し腹が立った。

葉巻を加え二階の手摺りに頬杖をつく姿が目に入る。

一瞬目が合って、呼吸が止まりそうななった。




「ラクサスー!!!オレと勝負しろーっ!!!」

「さっきエルザにやられたばっかしゃねえか」

「そうそうエルザごときに勝てねえようじゃ、オレには勝てねえよ」


「どういう意味だ」

「オイ…おちつけよエルザ」


「オレが最強って事さ」

「降りてこい!!!コノヤロウ!!!」

「おまえが上がってこい」




ラクサスの見え透いた挑発に乗せられ…いや、乗せられなくてもナツはいつもあんなだが。

二階に続く階段へと駆け出す。

と、それをマスターが巨大化させた左腕で止めた。

ナツを簡単に、手の下敷きにする。




「ぎゃっ」

「2階には上がってはならん。まだな」

「ははっ!!怒られてやんの」

「ふぬぅ…」

「ラクサスもよさんか」


「妖精の尻尾最強の座は誰にも渡さねえよ。エルザにも、ミストガンにも、あのオヤジにも…アイリスにもな」

『……っ』

「オレが…最強だ!!!」




120310

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