FT夢
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『1ミリも納得出来ないね。確かに、駅の天井はフッ飛ばしたし、定例会の会場も粉々だ。
けど、あの状況下では正しい判断だろ』
「………」
『黙ってたげるから、目的話したら?』
あたしを引き連れて歩くカエルの背を睨みながらそう言うも、返事はない。
ハナっからそうだろうとは思っていたが、こうまでガン無視なのはいただけない。
首筋を掻く為に片手を上げようとするも、手錠をされているから結局両手が上がる。
――――不愉快だ。
『!』
柱の影に、誰かが立っている。
長身に青の髪、右目のタトゥーが印象的な男…
懐かしい顔に、息を吐いた。
『ジークレイン』
「久しぶりだな…アイリス」
低い声でそう、呟くようにジークレインは言った。
あたしを連れていたカエルは深々と跪き、黙っている。
『驚いた…貴方の仕業だったんだ』
「心外だな…オレは妖精の尻尾を弁護したんだぞ。
だが、じじいどもは責任問題は自分に及ぶのを怖れ、すべての責任をおしつける対象をつくらざるをえなかった」
スケープゴートってやつさ、とまるで他人事のように話す。
まあ、実際彼には他人事なんだけれど。
此処に思念体で現れた事がそれをよく表している。
『あたしをまた使うのか…相変わらずやり方が汚いね』
「そう言うな…」
ジークレインはあたしに近づくと、細い指先であたしの顎をくいっと持ち上げた。
そのままジークレインはあたしの唇に噛み付くようにキスをする。
熱っぽいけど、しつこくはないキス。
思念体だから温もりはないけれど。
角度を変えて何度もくっいてから…ようやく離れる。
『ふ……っは…』
「…………」
『…これで、満足?』
下から挑発するように笑ってやると、彼は一瞬驚いたような顔をした。
が、すぐにいつもの無駄にイケメン顔に戻り、
「まだお前は、笑うことを思い出さないのか」
『忘れてはいないサ。今だってちゃんと笑える』
「お前は笑う度に“アイツ”に謝っている…違うか?」
“貴方の笑顔…とても素敵ですよ。”
“人の幸せを、自分の事のように喜んでいるのが伝わって…暖かくなるわ”
『―――――――
あたしの前で…二度とあの人の事をアイツ呼ばわりするな』
ジークレインの首に、持ち上げた右手の人差し指を軽く突き立てた。
爪が軽く喰い込むのを、彼は平気な顔していた。
当然だ…思念体なんだから。
「では…扉の向こうで待っている。評議員の1人としてな」
そんなあたし腕を取って、最後にもう一度キスをした。
まるで砂のように簡単に消えていくジークレイン。
俯いていたカエルがあたしを見たまま身体を震わせていた。
すごい人と知り合いなんだな…と。そう呟いて。
そんなカエルとは逆に、あたしは彼に残像に向かって『ムカツク』と吐き捨てた。
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