FT夢
□07
2ページ/3ページ
「これ…あたしたちがレンタルした魔導四輪車じゃないじゃん!!!」
「鉄の森の周到さには頭が下がる。ご丁寧に破壊されてやがった」
駅の近くに止めて置いた魔導四輪車は見事に木端微塵だった。
代わりが見つかったのはよかったけれど…無断で持ってきたのは如何ばものだろうが。
壊された方も、誰の所持品でもなくレンタル品だったので、まあ、普通に考えれば弁償だろう。
そのことを嘆いているルーシィに、
『あたし結構貯金あるから、そのあたりは心配いらないかもね』
「あ…そっか、アイリスって二年仕事に走ってたんだっけ」
『……ま、その通りかな。半分アタリ』
「?」
本当は―――
…誰にも、会いたくなかったから。
「な…なぜ僕をつれてく…?」
もう怪我は平気なのだろうか、カゲは結構流暢にぺらぺらとなんでも話す。
敵である自分がこの車に―――何の拘束もなく―――乗っている事に疑問があるのだろう。
それは妥当な感情だろう。
逆の立場ならあたしも当然問う。
「しょうがないじゃない。町に誰も人がいないんだから」
『クローバーのお医者さんにつれてったげるんだってサ』
「違う!!!なんで助ける!!?敵だぞ!!!
そうか…わかったぞ…僕を人質にしてエリゴールさんと交渉しようと…無駄だよ…あの人は冷血そのものさ。僕なんかの…」
ぶつぶつと呟き始めるカゲに、暗いとルーシィが蔑む。
確かに暗い…名前もカゲだし。
と、あたしの隣にいたグレイが「死にてえなら殺してやろうか?」などととんでもないことを口にした。
勿論本心ではないだろうけど…少し驚いた。
「生き死にだけが決着の全てじゃねえだろ?もう少し、前を向いて生きろよ。オマエ等全員さ…」
「、」
『あたしサ、死ぬ事って罰じゃなくて罪だと思う。あ、寿命とかは別だけどネ』
言い事を言ったグレイの頭をなでなでしつつそう言う。
嫌がられるかと思ったが意外にもグレイは拒まないようだ。
と、魔導四輪車がガタンと大きな音を立てて揺れた。
「エルザ!!!」
「すまない、大丈夫だ」
『………』
そう言うが、彼女の息はかなり上がっている。
虚ろな瞳を見る限り、視界もかなり悪いのだろう。
強がりな彼女は二年経っても変わらないようだ。
エルザの手首からSEプラグを外し、自分のソレにつける。
「アイリス!?」
『あたし運転は出来ないから、エネルギーにはならせてもらうよ』
エルザはキョトンしていたが、あたしは絶対譲らない。
それを分かって、彼女は何も言わなかった。
後ろでは何か一悶着やってる。
「でけぇケツしてんじゃねえよ…」
「ひーっ!!!セクハラよ!!!グレイ、こいつ殺して!!!」
「オイ…オレの名言チャラにするんじゃねえ」
全くだ。
でも…この緩い感じが堪らない。
……少しだけ、“あの場所”に似ているからかな。
「そういやアイリス」
『うん?』
「体調は…もういいのか?」
小さくこくんと頷いたあたしの頬を、グレイの指が滑る。
くすぐったくて奴の顔を睨むが、あまり効果はなさそうだ。
気が抜け思わずバチッと漏電してしまうと、それが彼の指先に触れ、一瞬離れる。
『あ、』
「痛っ…」
『ご、ごめん……』
再び、追い掛けるように触れられる。
そのまま指はあたしの髪に触れ、くるくると弄んで、離れて、弄んで、離れ―――
「あの〜…おふたりさん……」
「『!!!!』」
「あたしたちがいるんですが…」
,