FT夢

□03
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アイリスとは昔から一緒にいるけど、こんなに近くにいるのは初めてだと思う。

気持ち悪くてぐるぐる回る頭の中で、アイリスの体温だけが心地よくて。




『ナツ、ごめん…頑張れる?』




下敷きになって、少なからず苦しいのだろう。

しかも意外と照れ屋なアイリスだ。顔が赤いし、羞恥心もあるのかもしれない。

なのに、乗り物に弱いオレを気遣って優しく聞いてくる。




「……む、り…だ」




別に、体を起こすくらいなんでもない。

辛いけど、出来ないワケじゃない。

でも、もう少し近くにいたくて―――

小さいウソをついた。




『だよな』




苦笑いをしてそう言うと、アイリスはゆっくり身体を動かし始めた。

密着している身体が擦れる度に、余計にアイリスを近くに感じて。


気がついたら、腕が言うことをきかなくて。




『……ナツ?』

「………」




アイリスの首筋に顔を埋め、腕を背に回した。

突然の事に驚いている様子のアイリスは、混乱するでもなく、慌てるでもなく…ただ、オレを見ていた。

本当に―――鈍すぎる。




『ん、しょっと…』




どうにか俺の下から抜け出したアイリスは、その細い腕で軽々と俺を持ち上げ座席に座らせた。

が、腕を離さない俺を見て困ったように溜息をついた。




『ナツがいたら、あたしは将来子供作れないね』




冗談のようにそう呟く。

つか、流石に意識が朦朧としてきた。




『取り合えず、あたしエルザ達に連絡してくるから』

「はぁ…はっ…はぁ……」

『ちょっとだけ一人で待っててね』




そう言ってアイリスはオレの額にキスをして、俺の腕の力が緩んだ隙をみて車両を移動した。

一人になって、少し寂しかった。

いや、アイリスがいなくなって、寂しかった。


二年も傍にいなかったのに、いざ一度会ってしまうと中々離れがたくなる。






(馬鹿なのか、オレは)




その答えはオレが一番よく知っていた。



120209

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