銀魂夢

□弐
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鬼の副長、そう呼ばれる男だと知ったのは、彼と随分親しくなってからだった。

あの真選組の副長だと言う事にも驚いたが、“鬼”という形容の仕方には流石に噴き出す程驚いた。

鬼、か…




『土方さん』

「…ん」

『…ふふ。なんでもないです』

「変な名前」




そう言って私の手を強く握る彼の、何処が鬼なものか。

こんなに優しくて素敵な人を、私は他に知らないよ。


私が江戸に来て、もうすぐ一年。

此処で過ごす、二度目の夏が訪れる。





――――――――――…





「そういや、この間言ってた仕事は終わったのか?」

『あ、はい!初めてのプレゼンなんでガチガチでしたけど…なんとか』

「…目に浮かぶな」

『…土方さんこそ、最近忙しかったじゃないですか』

「夏だと攘夷浪士共も血気盛んになるんじゃねェの?」




冗談ぽく言う彼に思わず笑いが零れた。


こうして会うのは久し振りだった。

土方さんは言うまでもなく忙しい人だけど、私も最近は入社して初めてのプレゼンを任されたりで、会う暇がなかったから。

こうして食事の後に談笑しながら夜道を歩くのも、幸せで仕方ない。




「…なァ、名前」

『はい』

「…キスしても、いいか?」

『ふふ…訊かなくてもいいのに』




歩を止めて、私は土方さんに向き直る。

身長の高い彼が身を屈めても、私が少し背伸びをしなければいけないような距離。

今日は高めのヒールだから…その心配はないかな。

触れるだけの優しいキスを何度か繰り返し、ようやく、離れた。




『ん…』

「…っ、…名前、」

『なんですか?』


「好きだ」

『あ…改まって言わないでください…恥ずかしい…』




恐らく赤くなっているであろう顔を背けて、私はそう呟いた。

土方さんはふっと小さく笑って、もう一度私の手を強く握る。




「お前は?」

『はい?』

「どうなんだよ、俺の事」

『…好きに、決まってるじゃないですか』




それを聞いて満足したのか、もう一度頬にキスを落としてから歩きだした。



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