銀魂夢

□壱
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無機質に響く、電子音。

世話しなく動く白い人達。



薄れ行く意識の中の私に、確かな事が一つだけあった。


もう、貴方の傍にはいられない。





―――――――――……





かぶき町に引っ越して来たのは、決して間違いではなかった。

人込みはまだ少し苦手だけど、田舎娘の私にも優しくしてくれる暖かい人達ばかり。

二十歳になったばかりの私が、地元を出てこの町に上京したのは約一週間前の事なのに、もう随分昔の事のように感じる。




(就職も決まったし…よかった)




ダンボールに箱詰めされた物を取り出しながら、数日前の面接を思い出して安堵した。

この部屋も午後の日当たりはいいし、家賃も間取りのワリにお手頃だったし…。

改めて、これから始まるであろう生活に胸が高鳴った。




『…あれ?』




大体全ての物をダンボールから出したところで、ふと気付いた事があった。

着物の数が、圧倒的に少ない。

よくよく見ればダンボールの数が足りない気もする。





(…まさか)




そう思って実家に連絡すると、思った通り、私の部屋にダンボールが1つ残されていたらしい。

今から送ってもらうにしても、私のド田舎からは確実に5日はかかるだろう。




≪あなた…そんなので大丈夫なの?もう社会人なのに、≫

『わ、分かってるよ!…もう切るからね!』




電話越しの母の声が少し照れくさくて、心配してくれた母親の事も蔑ろにして通話を終了させた。

とにかく、着物を買いに行こう。

折角憧れの歌舞伎町に来たんだから、その記念だ。




『とは言ったけど…何処に行けばいいのやら』




財布片手に街へ出たはいいが、街の勝手は未だよく分からない。

まだ、気軽に話せるような友達がいないのも痛い。

こういう時、すぐ訊けるような友達がいればいいのだけど…

首筋を流れる汗を、手で乱暴に拭った。




『あ』





行く宛もなくとぼとぼと歩いていた私の前に、黒い服を着た人が目に入る。

この季節にあんな暑そうな服…

確か、真選組と呼ばれる警察の人で…この辺の事には詳しいハズ。

…警察の人に「可愛い服屋しりませんか?」なんて訊いていいのだろうか。





「オイ」

『!?』

「テメェだよ。さっきから何見てんだよ」




当たり屋か!思わずそう突っ込みそうになる声の掛け方だった。

瞳孔開いてるし、煙草の煙も鼻の奥をつんとさせる。

近付けば、見上げなければ顔を合わせられない長身で。




「見かけねェ顔だな…」




これが、私と彼―――土方十四郎との出会いだった。


壊れかけのお姫様
(会えたこと)

→あとがき

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