ill wisher


□ことばあそび
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「……お前喰いすぎやないか?」

『ほんひゃほふぉ……っん。ないよ』

「すまん、何て?」



もんじゃを食べる私の隣で、勝呂がぽかんとしていた。

此処の店のもんじゃは本気でおいしいと思う。

流石兄様の大好物ベスト3…。





『はむ。お兄様、誰にお電話なさっていらしたのですか?』

「…お前の弟だ」

『!』


「アイツが到着したら、学園内で会う事を許可しよう」





その言葉に僅かに肩が跳ねる。

漸く、漸くか。

もんじゃを口にした兄様に頭を下げ、私は席を立った。





『私も“らむね”欲しいー』





さっきの私達の会話は聞こえていなかったようで、こねこまるがラムネを一本くれた。

それを口で開けながら、同じくラムネを所望していた雪男の横に座る。

彼は驚いたように私を見る。





『お疲れ様、先生』

「……すみません」

『やっぱり、私が出した書類を変更させたのは雪男だったのね』

「フェレス卿が、「名前は一応塾生ですからね」だって」


『そんなことだろうと思ったわ』





まさか兄様にしてやられるとは思ってなかったけど。

あれくらいの書類の密度なら、雪男なら半日程度で終わらせてしまうだろうし。

苦笑気味にラムネを口にする。


ビー玉がカランと小さく音を立てて転がる。

それに影響して、中の炭酸水が泡を出した。





『それじゃ、罰として宇治金時でも買ってもらおうかな』

「え」

『ちょっと遠いところにある喫茶店の…しらたまがのってて美味しいの』





ニヤリと笑ってみせると、彼は仕方ないと言った感じで溜息を吐いた。





「お付き合いいたしますよ、お姫様」

『くるしゅうない、』





そんなやり取りに思わず噴き出してしまい、私と雪男は二人で笑った。

こんなに声を上げて笑ったのは久しぶりだ。

気分がいい。理由もなく楽しい時間だ。





「名前ー。もんじゃ焼けたぞー。喰うか?」

『あ、食べる!』





燐がそう呼びかけたので、私は雪男の隣から失礼して立ち上がる。

と、歩きだそうとしたその時、彼は私の腕を引いた。





『なに?…どうか、した?』

「…いや、何も……」





すぐに私の腕を離し、俯いた。

何が言いたかったのかさっぱり分からず、私は一人で脳内にはてなを掲げていた。





『先生、疲れてるんですか?』





からかうようにそう言った私への

返事は、なかった。








(ことばあそび)

(夏空の下で)


→あとがき

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