ill wisher


□感情を消してしまう理由
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「そおいや、名前さん」

『、う、あ…なに?』

「さっき詠唱してたの…なんなんですか?」





皆目の前の事に必死で覚えてないと思ったら…

…こねこまるめ、ちゃんと覚えてたよ。

ヘタな言い訳は追求されるとボロが出る…なら此処は無難な解答を、





『え?…何の話?』

「名前さんが詠唱したら、屍の動きが止まったやないですか」

『うー…あの時は必死だったから、覚えてないわ』





用があるからと、私は足速にその場を退散する。





「お、オイ…名前、」

『ご無事で何よりですわ、燐様』

「!お前、また…」



『先程の失言…大変失礼致しました。では、失礼します』





初対面の時と同じように丁寧にそう言った私に、何か違和感を感じたのだろう。

燐が、歩き出そうとした私の腕を掴んだ。

驚いて振り向いた私の顔を心配そうに見る彼。


それを首を振って断り、私は兄様の元へ向かった。































「言い訳する気があるなら、聴いてやらん事もないが」

『…ありません』

「そうか」





身体の前で手を重ね、深々と頭を下げる。

お兄様…思ったより怒ってる?

部屋の温度が、感覚的にいつもより低い……気が、する。





「まあ、あの状況では仕方なかっただろう」

『………』

「それよりも、」

『へ?』


「お前の精神状態の方だ」





完全に不意打ちだった。

驚いて無意識に呼吸を止めると、兄様が私の襟足の髪を掴んだ。

そのまま、緩やかに引っ張られる。





『兄、様っ……っいぁ!』

「考えてもみろ。…奥村燐に接触する前のお前が、この程度で声を上げたか?」

『……ッ』


「近い内に一度調整を行う」


『!兄様、あれは延期になっ』





抱き寄せられて口付けを落とされる。


苦しい。


さっきの事が蘇る。


苦しい。


誰か分からなくて、


苦しい。


何も分からなくて、


苦しい。



――――――恐い。





『ふ、ぅ…あっ…』

「………」





知らずと流れた涙を、兄様が舌先で拭う。

嗚呼、確かに最近の私は少しおかしいと気づいた。




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