ill wisher
□感情を消してしまう理由
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手足の痺れが取れない。
更に言うと、左腕が動かない。
今の私の顔は、作り笑いがいいとこだった。
「…これは」
「!」
『…雪男!』
全て片がついたそのタイミングで、雪男が帰ってきた。
と、その後ろをネイガウスがスッと通り抜けて入ってくる。
……え?
「ゆ、雪男、そいつてき、ング!!??」
「おや、失敬☆」
軽い声を出して、文字通り突然現れたのは、
いつもの服装の兄様だった。
燐を踏みつけて登場した兄様に、全員が呆然とした。
「ハ〜イ☆訓練生の皆サン、大変お疲れサマでした〜」
「メ…メフィスト!?」
「???あれっ…て、理事長か…?」
「どーゆうこと…?」
「ふぁっふぁっふぁ!
この理事長が中級以上の悪魔の侵入を、許すわけがないでしょう!」
そう言って、兄様はパチンと指を鳴らした。
途端に部屋のあちこちから現れる祓魔塾の講師。
一体全体どういう事なんだ?
「医工騎士の先生方は生徒の手当てを」
『…お兄様、これは一体…』
「そう!なんと!
この強化合宿は、候補生認定試験を兼ねたものだったのです!!!」
『!』
「はがっ!?」
一連の事件は、全てがテストだったらしい。
ちゃんと講師達が見守り、審査していたのだと。
有り得ない。
有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない!
この合宿企画の報告書はこの、この私が組んだのだから!
手違いなんて有り得ない、そんな予定は全く皆無のハズなんだ。
「…名前」
『!、はッ』
「“云いつけ”を…破ったな?」
『!!』
「お前は私の部屋に来い。話をする」
『……畏まりました』
しまったとは一瞬思ったけれど、正直後悔はなかった。
あの時、あの文節を詠唱した私の判断は間違ってなかったと思っていたからだ。
だから別に後ろめたい気持ちはなかった。
「くっそおー!!!!」
燐の叫びが、部屋に響いた。
……後ろにしえみが寝ているんだが。
そんなに大声出すと起きるんじゃないかと少し心配だ。
「まさか…抜き打ち試験だったなんてな…」
『うん…驚いたわ』
「…少しは可能性考えとくべきやったねえ」
皆が皆不安そうな顔だった。
物事には過程と結果が必ず存在する。
抜き打ちであろうと、試験を受けたからには必ず合否の結果が有るものだ。
こねこまるは頭を抱えて、
「坊や志摩さんはええですよ!名前さんも頑張ってはりましたし…
…僕ときたらろくに腰立たんようになってたんですから…」
「あんた達は大丈夫でしょ…奥村先生は試験前…チームワークについて強く念を押してたわ
…つまり、候補生に求められる素質は“実戦下での協調性”…!」
『……成る程』
「…それでいうと、あたしは最低だけどね」
「お前はまだ全然マシやろ。あいつらなんか完全に外野決めこんどったんやぞ」
部屋の隅で静かに椅子に座っていた山田くんと宝くんに、勝呂が強気で当たる。
この二人の存在が未だかなり謎なのだが、いつか解明される時はくるのでしょうか。
ゲームをしていた山田くんが棒読みっぽく、
「やった〜鱗竜の爪ゲットー。改造♪改造♪」
そう言った声に、違和感を覚えた。
何処かで聞いた声…でも、顔と名前が出てこない。
考えていると、隣の宝くんが腹話術をしたのに感動して、すぐに忘れてしまった。
「ん…」
「あ…やべ」
しえみが目を覚まし、寝呆けがちに声を出す。
ゆっくりと身体を起こしたのを見て取り敢えず一安心。
「みんな何のお話してるの…」
「…試験のことについてな」
『しえみすごかったよ。格好良かった』
「杜山さんがおらんかったらと思うとぞっとするわ。ほんまに、ありがとお」
突然頭を下げた勝呂に慌てふためくしえみ。自然と笑みがこぼれた。
ようやく引いてきた痺れに息を吐き、私は立ち上がる。
一刻も早く兄様を問い質さなければ。
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