ill wisher


□硝子玉に反射して
2ページ/2ページ










「汝め…また性懲りもなく呼び出しおったか…身の程をしれと…」

「――――あたしに従え!!」





もう、今は全部どうでもよかった。


朴が塾を辞めてしまったのはあたしのせいとか、

それに動揺して使い魔に影響したとか、

こんな…弱ってる子に心配された事とか、





「行くわよ!」





性格悪くて、負けるのは大嫌い…!!

それがあたしよ!!!!


誰に何を言われても、何をされても…もう関係ない。

今のあたしが出来る事を、完璧にこなすだけ。





「“ふるえゆらゆらとふるえ…靈の祓!!!!”」

『神木、さん』





名前の透き通った声が、耳に響いた。

屍に私の攻撃は効果がなく、勝呂が髪を掴まれて宙に上げられる。


詠唱が止まる事はなく、途切れがちになりながらもしっかりと言葉を続けた。





「“我等は、その證の、真なるを…!!”――――“知る”」

「坊!」

『勝呂!!!』





誰もが最悪の事態を思ったであろうその瞬間、

部屋に照明が灯った。

これで屍の行動が抑えられる。





「“…我…おもうに、世界も…”」

「オ゙モ゙オオオオ…」





「“その録すところの書を載するに、―――――耐えざらん!!!”」





短く乾いた音を立てて、屍の姿が消失する。

宙に放り出されていた勝呂が身体を床に落されて。


荒く息を吐く彼を支えた三輪。

と、間髪入れずに奥村燐も帰ってきた。





「おい!…ぶ、無事?」

「「「「……」」」」


「おおおおま…もう一匹は…、」

「え…?ああ、倒した!安心しろ。お前らも倒したのか?スゲーじゃ、え?…フンブ!?」



「なん…なんやお前、なんて奴や!!!!死にたいんか―――ッ!!!?俺は死ぬとこやったわ!」





ケロリと言い放った奥村を力強く薙ぎ払う。

有り得ない…何人がかりで倒したと思っているんだ。

それを一人で倒したって言うの?


騒いでる男子を放置し、倒れていた杜山しえみを呼ぶ。





「なにアレ…バッカみたい。…大丈夫?」

「う…うん」

「………あたし、あんたが大ッ嫌い…!」





面と向かってそう言うと、少し驚いたような顔をする。

ああ、気付いていなかったの?

内心で少し笑って、背を向けた。





「…でも、今回は助かったわ。それだけ…!」

「…う、うん!」



(朴…あたし、頑張るね…!)





本当に全て吹っ切れた。

顔を合わせてではないけれど、ちゃんとお礼が言えるだなんて。

大きく息を吐いてから振り返った先に、名前と勝呂の姿が見えた。





『………ありがと、勝呂』





そう言ってこの世のモノとは思えないくらい綺麗に笑った名前を見て、

柄にもないけれど、あの子みたいにもう少し素直になりたいと思った。








(硝子玉に反射して)

(柔らかい光が闇に眩む)

110802

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ