ill wisher


□思うまでもない、
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「―――――皆さん、少しは反省しましたか」

「な…なんで俺らまで」


「連帯責任ってやつです」





囀石を乗せて正座をした私達に、雪男は呆れ顔で告げた。




この合宿の目的は“学力強化”に加えて、“塾生同士の交友を深める”だ。

それに則った処置らしい。

最初は、なんだそれふざけんなと思った私だったけれど…



……その目的で企画書を提出したのは、私だった。

なんてことだろうか。





『ねえゆき…じゃない、先生…聞いてください』

「は?」

『私トラウマを抉られた上に囀石の刑だなんて…』

「…………」





悲しい笑顔を向けられた。





「こんな奴らと馴れ合いなんてゴメンよ…!」

「コイツ…!」



「馴れ合ってもらわなければ困る…祓魔師は一人では闘えない!」





眼鏡の位置を直し、彼は言った。


確かに、一般的には祓魔師は必ず二人以上の班を組んで戦闘を行う。

特性を活かし、欠点を補い…






「実戦になれば、戦闘中の仲間割れはこんな罰と比べものにならない連帯責任を負わされる事になる。

…そこを、よく考えてください」





強気だった神木さんが、押し黙った。


腕時計で時間を確認した雪男が、今から自分は3時間任務で外すという。

寮の全ての出入り口を施錠、更に魔除け。


三時間、“皆で仲良く”頭を冷やしていろと。





「3時間…!鬼か…!?」

「もう限界や……お前とあの先生、ほんま血ィつなごうとるんか」

「…ほ…本当はいい奴なんだ…きっとそうだ」


『ああ、そうか分かった。もう意識を飛ばして―――――』


「あかん、名前が何所かに行ってしもた!!」





しっかりしろと勝呂に言われるも、この囀石…私に気付いてないらしく加減をしてくれない。

直接呼びかけてもいいけど、恐らく燐には気付かれてしまう。

正座は和服を着込む時にしかしないから、本当に慣れなくて困る。





「つーか、誰かさんのせいでエラいめぇや」

『まだやるのか…』

「は?アンタだってあたしの胸ぐらつかんだでしょ!?信じらんない!」

「頭冷やせいわれたばっかやのに……」





周りが止めるも意味がないようで、まだ続ける。

いい加減にしてくれないかと言いたい。


先にケンカ売ったのはそっちだとか、どっちがやり返しただとか。

挟まれてケンカされる燐に同情しよう。





「…ほんま性格悪い女やな」

「フン、そんなの自覚済よ。それが何!?」


「そんなんやと周りの人間逃げてくえ」


「…………!!」





困惑した表情の神木さんの顔を

一瞬で、闇が覆った。


照明が、落された。





「!?」

「ぎゃああ」

「あだっ、ちょ…どこ…」

「何だッ!?」





暗闇には慣れっこで、私は慌てはしなかった。

視えるワケではないけれど、平気だった。





『明かり…スイッチは弄ってないから、ブレーカーか何か……っむ』





冷静に状況分析をしていた私の口を、何かが塞いだ。

判断するまでもない。





それは―――――――人間の唇だった。










(思うまでもない、)

(感じた、ただそれだけなのだから)

110731


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