ill wisher


□かつて不幸な青年がいた
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この際だからハッキリ言ってしまうと、俺は名前の事を若干意識していたり…する。




最初はえらい、綺麗な奴やと思った。

誰がどう見ても、他の奴と違う雰囲気があるのは一目瞭然やった。

せやけどあんまし塾に来やんし、授業もぽけーっとしてるし、不真面目な態度が気に入らんかった。



だから、ついカッとなって、この間は悪い事言うた。

正直反省してるし、今更やけど謝りたいとも思てる。





(せやのに、)





授業を抜け出して見舞いに来た名前の部屋で、奥村先生が名前の額にキスをしていたのを見てしまった。

名前の顔が驚いてたから、多分同意ではないと思う。




―――少なからずショックやった。





忍び足でその場を去った俺は、自分でも驚くくらい動揺していた。

寮を走って離れ、学校に着いた頃にようやく我に帰った。





「……嘘やろ」





サタンを倒すという野望を持つ俺は、女なんかに現つ抜かしとる暇ないんや。






























『こんにちは』





学校が終わるより少し早めに塾に行ったから、きっと誰もいないと思ってた。

でも、予想に反し、そこには勝呂が一人でいつもの席に座っている姿があった。

近づいて俯いている顔を覗き込むと、彼は目を閉じ、ゆっくりと呼吸をしていた。


……寝て、る?





『勝呂、ガッコどうしたの?』

「…………」

『あ、あとお見舞い?来てくれてありがと』





顔を見せてくれなかったから確証はないが、恐らく勝呂だ。

声をかける前にいなくなってしまったけど。

メッシュの入った髪をソッと撫で、膝立ちして顔を寄せた。





『…すーぐろっ』

「……ん、…」


『すぐろくーん』

「…………」


『ぼん?』



「…………名前、……」





あ、私の名前言った。……起きてはないか。

こんな事言うのアレだが、サタンを倒すとか言うワリに、勝呂にはスキが多い。


こんなにすぐ近くに、悪魔がいるというのに……。


どう呼び掛けても起きない勝呂に痺れを切らし、私は耳元で囁くよう、





『…………竜士、』





そう呟いてみた。


そしたら、ぴくりと勝呂の肩が動いて、完璧に覚醒したように目を覚ました。

おはようを言う暇もなく、彼は驚いたようにその場に立ち上がった。


椅子がガタリと激しく音を立てる。





『あ、おは…』

「な、なな、なんっ…名前、何で」

『?…なに?』

「…………何でもない」





やたらと慌てて何かを言おうとするも、結局口にしない。

再び座った勝呂の隣に腰掛け、それに驚いた彼に向かって、





『寝てていいよ。始まる前に起こしてあげるから』

「……あのさ」

『ん』


「名前は、」




「あ、坊!此処にいはったんですか」

「もう…探してたんですよ……あ、名前さん!もう体調よろしいんですか?」





と、そこに志摩とこねこまるが入って来た。

心配してくれた二人に平気と伝える。

勝呂は何故か、小さく舌打ちをした。





『あ、なんだった?』

「もうえぇわ」

『……?』





不機嫌そうに顔を背けた勝呂に、私は何かしてしまったのかと不安になる。

けど、考えても分からない。


仕方なく、溜息一つ吐いて私はいつもの席に着いた。




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