ill wisher


□たまには一休みしようよ
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『奥村せんせ…もう、私…へいき、だから…

だから…その、は、はやく……




































………学校へ行かせてくれませんか?』



「だから、午後からだと言っているでしょう」





そんなやり取りを繰り返している私と雪男。

言っている通り、私はもうすっかり元気だった。

本当にもう学校に行ってもいいくらいなのに、どうしても許可をくれなかった。

せめて、午前中だけは休んで午後からだ、と。





『ケチなほくろメガネ』

「…………」

『ばか、あほ、泣き虫』

「…………」


『あ、そういえば藤本神父に貰った雪男の秘蔵写真が―――――』

「……いいから、寝てろ」





ピキ、と空気の凍る音を聞いた後、雪男の素が露わになった。

大慌てで布団に潜り込み、寝たフリをする。





「……あのね、名前」

『………』

「聞いてる?」

『何よ…寝ろって言ったり話しかけたり』





布団から顔を出し、ベッドに寝たままで雪男に背を向ける。

さっきまで煩かったクセに、私が話さないと今度は自分が話しかけてくる。


若干億劫ながら話を聞いてみる事にした。





「今から言うのは、教師とかそんなんじゃなくて…僕個人の思いね」

『……なに』


「まず…あんまり無茶をしないでほしい」

『?』

「名前は…兄さんと似てるんだ。人に頼らない所とか」

『似てる?』


「兄さんも名前も強いって事、僕は知ってるつもりだ。

でも、あまりにも無鉄砲すぎる」





燐と似ていると言うところには若干違和感を感じる。

でも、確かに私はあまり人に頼らないかもしれない。

何かあっても、自分で済ませてしまう。





「次に2つ目」

『え、まだ何か、』



「僕にとって、名前は…特別な人なんだ」

『――――へ?』

「大切だから、…勿論、守りたいと思ってる」

『きゅ、急にどうしたの?なんか変なもんでもたべたんじゃ、』



「だから…」





ガタ、と物音がして、思わず反射的に雪男の方を見た。

さっきまでイスに座っていた雪男はいなくて、

でも、代わりにすぐ近くでその姿をとらえた。



自分に近付く雪男をどう避けようかと考える間もなかった。





ちゅ、と可愛らしい小さなリップ音をたて、彼の唇が私の額に触れた。

突然の事で呆然としていると、やけに大人びた雪男の柔らかい笑みが目に入る。





「心配させないでほしいな」





してやった顔の雪男は「朴さんの調子を見てくる」と告げ、部屋を静かに出て行った。


一方私は私で、布団を思い切り被り、なんとか今のアレをこう…夢だと思おうと努力した。

そんな事をしているうちに、いつの間にか眠っていて、






気がつけば、あんなに待ち遠しかった午後になっていた。





(たまには一休みしようよ)

(少しくらい、罰なんか当たらないよ)


⇒あとがき

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