ill wisher


□彼女は辛い時に笑うらしい
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「…名前は?アイツは友達じゃねーのかよ」

「…!………名前は、私よりもずっと強くて…きっと、友達だなんて思ってくれてないよ」

「は?そんなワケねーだろ。いっつもお前の事…大体、強いとか弱いとかなんなんだよ?」


「…もともと強くて友達のいる燐にはわかんないんだよ…!」

「!?」





バッと腕を振り払われ、八つ当たりのような捨て台詞を吐いたしえみ。

最初はキョトンとしていた俺も、言葉の意味を理解してくると段々イラついてきた。





逃げたしえみを追うように走り、ようやく捕まえた辺りだ。

さっき俺達がいた風呂場の方から、




























断末魔のような悲鳴が上がった。

二人分…神木さんと朴さんの声だ。





(何故…!?)





この学園内で悲鳴を上げる程強力な悪魔…中級以上のモノの侵入は兄様の結界で不可能なハズだ。

しかも、あの神木さんがいる中で。

あんなに優秀な彼女が、悲鳴を上げる?





「なんや、今の声!?」

「風呂場の方からちゃいますか?今女の子らが、」





勝呂と志摩がそう言うのも聞かず、私は祓魔師である雪男に何も告げずにだた声のした所へ向かう。

階段を飛び越えてショートカット、長い廊下を一目散に駆ける。




辿り着いたそこには、倒れている朴さんと、それを手当てするしえみ。

力尽きたように座り込む神木さんもいた。

その手元には、破かれた魔法円の略図の紙。


呑まれた、か。





『しえみ、どうした?』

「!あ、名前…朴さんが……」

『…屍の魔障…。…大丈夫、しえみならちゃんと出来る』


「!!」





そう言い聞かせて元気づけ、こっちの魔障は彼女に任せる事にした。


奥の浴槽の方を見ると、燐が今回の犯人と思われる屍に追い詰められていた。





『燐さ…じゃ、ない、燐!!』

「!、名前、く、な…」




首を抑え込まれ、身動きは愚か呼吸さえままならない燐の姿を確認する。

…降魔剣を抜きかけている。あと少し遅かったら間に合わなかった…。

怒りに任せて身体を脚を回し、遠心力で屍を蹴る。


僅かに動いたスキに、なんとか燐が抜け出す。





『…お怪我はございませんか?』

「ッ…だい、じょぶ、だ…つか、名前。敬語」


『何の事、っ、ひゃっ!?』





呑気に話してる間に、置き上がった屍からのカウンターの一撃。

モロに脇腹に入り、消化物の代わりに胃液が吐き出される。


壁に背を打ちつけた私に休む時間すら与えまいと、首を鷲掴みにして宙に上げられる。





『あっ…か、はッ…!』

「名前!!!」




「ヒ、メ…オ…ユ、ルシ、ヲ……」

『ぐぁァああッ!!あ、うっ…』





苦しさに喘いでいると、突如屍の横っ腹から銃撃。

1秒も考えず雪男だと分かった。


咄嗟に私を離して逃げた屍。そのせいで、私の身体は地に落とされる。





「名前!」

『ゆき、お………私、へいき…だから…』

「遅ェーぞ!!」


「…しえみさん、朴さんは…」





しえみが処置を施していた朴さんは、どうやら大丈夫だったらしい。

あの緑男が、身体から蘆薈を出したようで、処置が早くできた。

お陰で命に別条はないそうだ。





「杜山、さん…ありか、と」


「――――うん!」





お礼を言われたしえみは、満面の笑みで返事をした。

とても嬉しそうで、自分の事を忘れて笑顔になった。





『……雪男』

「取り敢えず、名前は一度病院に、」





『大丈夫だから…

折れてるのは、多分首だけ…



――――――…すぐ、治る、よ』





私がそう笑顔で言うと、雪男はとても悲しそうな顔をして私を抱き締めた。

耳元で何か囁かれたけれど、もうなんて言ってるのか分からなかった。





『ごめんなさい』





おやすみの代わりにそう告げて、私は彼に体重を預け目を閉じた。








(彼女は辛い時に笑うらしい)

(全く持って素直じゃない)


110726

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