ill wisher


□現実に追われて夢を追う
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次の授業は体育実技。

鎖に繋いだ蝦蟇に近づいて動きに身体を慣らすとの事だった。

エギュンの眷属なので、恐らく一瞬では私に気付かないと思う。





「うおォおおおおお」

「ぬウぐ、おおおお!!!」

『………………』





何があったのか知らないが、何故私は勝呂と燐と同じ時に走ってるのだろうか。

なんで私は女子組から除外されたのだろうか。





「なんか、おかしないか…?」

「ええ…

………なんで坊と奥村くんは蝦蟇に追いかけられてはるのに、名前さんは追いかけてるんでしょ…」





小声で言ったらしい志摩とこねこまるの会話は私にバッチリ聞こえていた。

確かにおかしいのだけれど…(どうしよう)





「おせーおせー、キヒヒ!アタマばっか良くても、実践じゃ役に立たね―――んだよ!」

「…くッ」

『蝦蟇さんもっとスピード上げていいよー』


「んで手前はなんで後ろ走ってんねん!!

…実践やったら、勝ったもん勝ちやあああ!!!」





その声と同時に、勝呂の跳び蹴りが燐の脇腹にヒット。

同時に倒れ込む二人が蝦蟇に追いつかれて、咄嗟にジャンプして蝦蟇にドロップキック。

大きく開き鳴いていた口が反動で閉じる。

………ところてんを踏みつけた気分だ。





『止まれっての』

「コラァーッ」





鎖が引かれ回収される蝦蟇から飛び降り、宙で一回転して地面に着地。

担当教科の青髭が濃い先生が怒鳴ってる。





「何やってんだ…お前…!」

「死んでもお前に負けたくなかったんや…」

『………お気に入りのパンプスだったのに、蝦蟇の体液がべっとりと…』



「この訓練は徒競走でも格闘技でもない、悪魔の動きに体を慣らす訓練だと言ったでショウ!

――――コラコラコラ聞きタマエ!!!!」





頑張ってパンプスを拭っていた私の背後で、勝呂と燐がまた喧嘩してた。

無理矢理離された二人。と、勝呂だけが呼ばれた。

と、競技場に下りた志摩が、





「かんにんなぁ。坊はああみえてクソ真面目すぎて融通きかんとこあってなあ。

ごっつい野望もって入学しはったから…」


「野望?」

「坊はね、「サタン倒したい」いうて祓魔師目指してはるんよ」

「!!!!」

『!』

「あっはっはっは…!笑うやろ?」





笑うところなのか、イマイチ判断に迷うのだが…。

それは不可能なことだと分かっているけれど、一生懸命な人を笑うのは何だか気が引けた。





「志摩さん笑うなんて…。

坊さんは「青い夜」で落ちぶれてしまったウチの寺を、再興しようと気張ってはるだけなんです」


「「青い夜」????」

『16年前、サタンが世界中の有力な聖職者を大量虐殺したって日の通称だよ』

「そうそう…うちの寺もやられたんよ」





パンプスを履いていない黒のソックスが汚れるのを懸念して、素足になる。

溜息しか出ない。そして取れない体液……。









16年前の夜。

世界中の力のある祓魔師が、次々と身体中から血と青い火をふきながら死んでいったあの夜。







(あの夜は本当に素晴らしいくらい美しかった。)



「名前ちゃん、素足て何かエロ……」

『はい?』

「…じゃなかった、何でゴスロリで体育実技受けてんの?」

『ゴスロリ?…あぁ、この服か。だって、動きやすい服装としか……』





普段から着なれたこれが一番動きやすいのだけれど。

そうこうしているうちに勝呂が戻ってきた。

やっと授業を再開、そう思った矢先。


先生の携帯が、鳴った。





「何かネ?ハニー。今からかい?仕方がない子猫ちゃんダ!」

『ねこ?』

「注ゥ目ゥ―――――しばらく休憩にする」





というワケで意図も簡単に自習になってしまった。

いろいろと注意を言った後に、すぐに先生は行ってしまった。



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