ill wisher


□彼女は独りが好きだった
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テーブルの目の前に座る名前は、ちょこんという擬音が相応しい態度だった。

同級生を相手にしているハズなのに、どうもこの子を見ていると保護慾に駆られる。





「ファーストフードとか、あんまし食われへんの?」

『はい…このような店にくるのは初めてです……』





興味深そうに周囲をきょろきょろと見渡している。(さっきから口が開きっぱなしや)

その様子に思わず笑ってしまうと、此方を向いた彼女と目が合う。

誤魔化すようにハンバーガーを取って「食べへんの?」と問いかけてみる。





『…どう食べるのでしょうか』

「ど、どうって…普通に、こう…ぱくっと?」

『ぱく…?……………はむ』





小さく息を漏らして、名前はハンバーガーの上にのったパンの部分だけにかぶりついた。

それ食べ方違う…そう言う前に、小さな口でゆっくりと噛み、こくりと飲みこんだ。





『……普通のパンですね』

「あー…いや、名前さん。それ食べ方違いますて…」

『?』

「パンの挟んでる具も一緒に食べるんです」





こうやって、と見本を見せてみると、ふんふんと頷きながら見る。

それを見て、名前は再び口にハンバーガーを運ぶ。





『……………あ』

「どうです?」

『すごくおいしいです………はむ』


「喜んでもらえてよかったですわ」





それからは彼女から話しかけてくる事はなく、一生懸命小さな口でハンバーガーを咀嚼していった。

時折俺が何かいうと、短く『はい』とか『そうですね』とか相槌を打っていた。


ようやく一通り食べ終わった名前に、さっきまで忘れていた気になることを訊いてみる。





「名前さん、どっから来はったんです?」

『…と、いうのは?』

「せやからさっき、俺の前にいきなり…」


『ああ………秘密です』





そう言って、彼女はイタズラっぽく笑った。

眩暈がした。





「ひ、秘密て……」

『秘密なモノは秘密です。誰にも言いません』


「あ、ならメアドかケー番教えてください」

『けーたい持ってないです。ポケベルと黒電話派です』





何とまあ変わった子やな。そう思ったけど口には出さず、黙っておいた。

いつもは制服なのに、今日は真っ黒のゴスロリ…コスプレ趣味でもあるのだろうか。

彼女は何かを思いだしたように、一瞬ハッとして俺を見た。





『すみません、また敬語を使ってしまいました…』

「え?」

『燐に敬語とか様とかだめって…』

「あぁ、そうなん?」



『……志摩で、いい?』





小さく首を傾げてそう訊いてきた。

衝動的に妹にしたい思った。

別に廉造でもええよとは言えず、俺は頷いた。


























『今日はありがとう』





その後数時間雑談していた私達だったが、そろそろ志摩は塾の時間なので別れることにした。

初めて食べた“はんばーがー”はとても美味しくて、私としては大満足だ。





「…て、あれ?名前ちゃん、塾は、」

『今日はお休みやの……………あ』


「関西弁うつってはりますよ。かいらしなあ」





慌てて口を噤んだが意味がなく、宥められるように頭を撫でられた。





「ほな、また」

『うん。また明日ね』





手を振って別れ彼の姿が見えなくなった頃に、近くの扉から無限の鍵で部屋に帰る。

音のないその空間はさっきまでとの温度差が強すぎて、

孤独感を恐れて、独りで泣いた。








(彼女は独りが好きだった)

(それでも、独りぼっちに恐怖した)

110724

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