ill wisher
□愛しき人の声だけが糧
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ベッドルームに戻ると、備え付けの黒電話の形状をしたピンク色の電話が音を出していた。
此処へ連絡をしてくる人物はかなり限られてくるし、こんな時間に誰だろうと思いながら受話器を取った。
『……名前です』
≪あ、あへふえ。おひはひふひへす≫
『…アマイモン、口の中のモノを飲みこんでからかけ直して』
電話の相手にそう冷たく言い放ち、私は受話器を呆れ顔で置いた。
誰かと思っていたら一番意外な人からだった……。
さっき兄様から貰った和菓子を入れたての煎茶と飲みつつ、机の上の書類を徐に片づけ始める。
と、1分くらい経ってまた電話が鳴った。
『……名前』
≪お久しぶりです、姉上≫
『ええ本当。久し振りね』
電話をかけて来たのは双子の弟で地の王のアマイモンだった。
彼と話すのは久し振りで、自他共に認める中のいい姉弟な私はその電話が嬉しかったりした。
『どうしたの、こんな時間に』
≪兄上からお許しが出ました。だから姉上の声をすぐ聞きたかったからです≫
『あはは。嬉しいよ』
≪…姉上、何かありました?≫
『へ?』
声がいつもより元気がないです。弟に思わず苦笑した。
そういう貴方はいつもおんなじ声ね、と言いたくなった。
相変わらず、私の事では敏感すぎる人だ。双子だからだろうか?
『なーんもないよ。あぁ、何にもないからテンションが低いのかな』
≪それでは会いに行けるようになったら、一緒におでかけしましょう≫
『本当?』
≪美味しいケーキ屋さんを見つけたんですよ≫
『嬉しい。楽しみにしてるわ』
弟の声のする受話器を愛しく感じ、両手で強く握りしめた。
≪では、また≫
『えぇ、元気でね』
その言葉の後、受話器から聞こえてきたツーツーという味気のない音が怖かった。
(愛しき人の声だけが糧)
(それは愛されていない少女の答え)
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