ill wisher


□愛しき人の声だけが糧
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何の前触れもなく、彼女は目を覚ました。

ピンクを基調として彩られたベッドルームの中の、天蓋カーテンのついたこれまだ派手なキングサイズのベッド。

まだ幼い容姿の―――――名前はそこで意識を取った。





(…………み、ず)





どれ程長い間寝ていたのかは分からないが、彼女は目覚めると途端に渇いた喉に水分を求めた。

いつの間にか、さっきまで着ていた制服から普段寝巻として愛用しているネグリジェに着替えていた事にも微塵も驚かず。

スッと素足からベッドを抜け出し、扉を開けて部屋を移る。





「まあカタかったですが、初授業にしては上出来でしたよ☆」





と、すぐに聞こえてきた名前の兄の声に僅かに眉をひそめた。

溜息を呑みこんで、目的である水を探す。

携帯で誰かと話しているのか、そう思った直後、会話のセリフから誰と話しているか大よその見当がついた。





「あの炎は悪魔に有効でした。使えます。

不安定でまだ感情に振り回されているようですが、センスはいいようだ」





自在に扱えれば最高にユニークで最強の兵器になる、と愉快そうに告げる。

見つけた水と一緒に、名前は兄へお茶のお代わりをそっと注いだ。





(…炎)





意識が途切れる前の微かな記憶をゆっくりと辿り、その言葉に似合う物を見つけた。

奥村燐が出した、あの青き炎。

そうか、自分はあの炎に酔ってしまって…冷静に自己分析をしていると、メフィストが携帯を机に置いた音で我に帰る。





「やれやれ。肩に力が入りすぎですよ先生。…もっと人生味わわねば」


『お仕事中失礼いたします。

…昼間は、ご迷惑をお掛けました。』


「気にするな。お前の事など分かり切った上で奥村燐へ同行させているのだから」

『はい』





失礼します。短くそう告げて再びベッドルームへの扉を開いた。

さっき水を飲んだばかりだと言うのに、まだ喉が渇いた感覚がした。





『そろそろサタンが動き出す頃合ですね』





独り言のように呟いた名前の言葉に、メフィストは妖しく、笑った。







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