ill wisher


□きっと誰もが嘲り笑う
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「はじめまして。対・悪魔薬学を教える奥村雪男です」

「ゆきお????やっぱり!?」

「はい、雪男です」





慌てる燐とは正反対の態度で雪男はそう言った。

相変わらず暑そうなコートだなと思う。


雪男が祓魔師なのは、勿論知っていた。

流石にこの歳で講師にまでなるとは思わなかったから、兄様にそれを知らされた時は驚いた。





「どうしましたか?」

「や…どど、どうしましたかじゃねーだろ!お前がどうしましたの!?」


「僕はどうもしてませんよ。授業中なので静かにしてくださいね」



「?、?、??

メフィスト!どういう事だよ、あいつなん…」


「コラコラ。何を気易く呼び捨てにしてるんです。いわば私は貴方の上司ですよ」

(何いってんのこの犬…!)




「お察しの通り、僕は皆さんと同い年の新任講師です。

…ですが、悪魔祓いに関しては僕が二年先輩ですから、塾では便宜上“先生”と呼んでくださいね」





何事もないかのようにどんどん話を進める雪男…元い、奥村先生。

ほんの少しだけ、私も不愉快ではあった。





『“奥村先生”は歴代最年少で祓魔師の資格を得た、対・悪魔薬学の天才だよ』





そう言ってちらりと燐の表情を盗み見ると、まだ納得がいかない、どうして自分は知らなかった?

みたいな複雑な顔をしていた。


最初の授業は魔障の儀式かららしい。

勿論燐や私には必要ないのだけれど。





「実はこの教室、普段は使われていません。鬼族という悪魔の巣になっています」

「え!?だ…大丈夫なんですか…?」

「大丈夫です。鬼族の類は人のいる明るい場所には、通常現れません」





奥村先生の言葉を聴いて不安になった一人の女の子がそう問うが、心配ないという。





(まあ、)





私がここにいる限り、何かなければ鬼族が襲ってくる事はないと思う。

いや、分からない…私、燐以外が攻撃される可能性も、

それが顔に出ていたのか、兄様(わんこ)の温かい肉球が太ももをぱむぱむと叩かれた。





「力むなよ、名前。お前は塾(ここ)ではただの一生徒だ」

『は…はい……』



「鬼族は動物の腐った血の臭いを嗅ぐと、興奮して狂暴化してしまう。

今回は鬼族の好物の牛乳で血で割って…」


(鬼は牛乳よりホットミルクの方が好きだけど)

「皆さんは僕が準備するまで少し待っていてください」





はーい、と心の中で呟くと、隣でガタッと音をたてて燐が立ちあがった。

雪男がいる教卓にスタスタと歩いて、次の瞬間力強く机を叩いた。





「……何ですか?」

「説明しろ…!」

『燐…授業中だから戻、』


「ふざけんな!」





大声を張り上げられて自然と肩がビクついた。

そこからは二人でなにやら小声で話し始める。

雪男も燐も真剣だったのだけが、私にわかった。





『燐……いえ、“我らの末の弟君”は、雪男の事を存じていなかったのですか?』

「あァ…前持って知らせる必要はないと思ったんだが、これでは授業が進まんな」


「なんで俺に言わねーんだ!!!!」





肩を掴まれた雪男が、思わず血液の入った試験管を落としてしまった。

そこからは、もう大変だった。



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