ill wisher


□これは何を開ける鍵?
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「では、参りましょう☆」





ポンッと柔らかい音とフワフワした煙を舞い上げ、兄様はスコティッシュ・テリア風の小型犬へと変身した。


…………………すごく可愛い。





『お、お兄様…!』





あやすように手を叩き手招きすると、兄様はてててと走ってきて、私の腕の中に収まった。

…フワフワである。よし、可愛い。





「エッ、祓魔師って変身とか出来んのか!?」

「できません。私や名前は特別です」

「名前も出来んのか!?」

『で、出来ない、よ』



「そうだ、“塾の鍵”を差し上げましょう」





口に鍵を加えた兄様が、ふわふわの肉球で私の腕を軽く叩いた。

立ち止まって燐に向き直ると、燐は兄様から鍵を受け取った。


いつでもどこの扉からでも塾へ行ける便利な鍵。

“この世界”ではとても貴重な鍵だ。





「ためしに適当なドアをその鍵で開けてみてごらんなさい」

「……??…?」





ガチャンと鈍い音を立てた扉は、祓魔塾への道を開いた。

高い天井、シビアな造りの廊下。

此処に入ったのは去年の大晦日…年末の大掃除以来だった。





「!!スゲッ」

「一年生の授業は一一〇六教室です」

『りん、こっちだよ』



「なんかドキドキしてきた…」

『大丈夫だよ。燐ならスグに友達出来るよ』





そう言って私が扉を開けると、そこに人は少ししかいなかった。

確か、名簿で確認したのは燐含め8人。





「すくな…!」

「祓魔師は万年人員不足でしてね。これでも多い方です」

『一応ね、私も通うんだよ』

「!ホントか!?」


『兄様に“その方がこの先便利だ”って言われて…

えへへ。燐の祓魔塾での友達いちばん、なんちゃっ、て…』


「!」





そう言ってみると、燐が急に手を握ってきた。

ビックリして兄様を膝に落としてしまった。

目を白黒させて燐の顔、目を見つめると、すぐに逸らされてしまった。





『り、ん?』

「お、俺と、その…友達…い、いいのか?」

『……?』


「…う、や、やっぱ忘れて、」

『逆に…私で、いいの?』





私みたいな根暗なヤツが燐みたいなおひさまみたいな人の友達でもいいのだろうか。

お互いがびくびくしていると、教室の扉がガチャリと開かれた。





「はーい、静かに」

「!!」

『!(びくっ)』


「おお、先生がいらしたようだ」





重そうな荷物を片手に入ってきたのは、祓魔塾の講師の先生。

今年からの親任で、兄の仕事の合間で勿論私も確認済みだった。





「席についてください。授業を始めます」





奥村雪男。

燐の弟で、つい先程まで普通に会話していた相手だった。





(これは何を開ける鍵?)

(きっとそれは運命を決める鍵だった)



110704

 

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