FT夢

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ようやく辿り着いた駅の外。

日差しが少しまぶしい。


駅員からスピーカーを奪取したエルザが、息を大きく吸い込み、




「命が惜しいものは、今すぐこの場を離れよ!!!!

駅は邪悪なる魔導士に選挙されている!!!!

そして、その魔導士はここにいる人間すべてを殺すだけの魔法を放とうとしている!!!!

できるだけ遠くへ避難するんだ!!!!」




その言葉の後、一瞬だけ静寂に包まれたクヌギ駅。

数秒後には、全員が全速力で駅から離れる為に走り出した。

エルザちゃん…強行すぎるぜ。




「き…君!!!なぜそんなパニックなるような事を!!!」


『人が大勢死ぬよりはマシだろー…エルザが今言った事、ホントだし。

あたしたちは全力で止めるけど、一応貴方達も早く逃げた方がいいよ』




そう言うと、駅員たちも悲鳴を上げて逃げ始めていた。

取り敢えず一安心な私たちの前に、凄まじい突風が吹き始めた。

駅と私たちをつなぐ通路に、それは突然現れた。




「駅が風に包まれている!!!!」

『どういう事だ…?』


「ん?なぜ妖精が外に二匹…そうか…ヤジ馬どもを逃がしたのはてめえ等か」

「エリゴール!!!」




現われたエルゴールはふよふよと宙を舞っていた。

風の魔法…十中八九、コイツの仕業だ。




「妖精女王…てめェとは一度戦ってみたかったんだがな…残念だ、今は相手をしてるヒマがねえ」




パァンと弾かれたエルザは、風の中。

間一髪でよけた私を見て、エリゴールは顔をしかめた。

中ではエルザが何か叫んでいるが、風の音でうまく聞こえない。




「…そんなに怖ェ顔するもんじゃねェぞ。氷の破壊姫トゥーランドット?」

『漏電してるしね。怪我しても知らないよ』



「クク…いいね。やはりテメェはオレ好みだ」


『最高だね。好みの女にイカされるなんて』




どんどん口が悪くなるあたしに、エリゴールの余裕の笑みが消える。

手に握った呪歌を口元に近づけ、




「図に乗るなよ。先にテメェから殺してもいいんだぜ?」




風が、髪にかかる。

一瞬だけ息が出来なくなって、


気がついたら、エルザが隣にいた。




(あぁ…私、風の中に……)

「大丈夫かアイリス!?」


「出ようとするのはやめておけ…この魔風壁は外からの一方通行だ。中から出ようとすれば、風が身体を切り刻む」

『………』

「鳥籠ならぬ妖精籠ってところか…にしてはちとデケェがな」





高笑いするエリゴールが、魔風壁越しに見える。


―――お前はいつもすぐ興奮する。

―――いつでも、冷静でいろ。



師匠に言われた事は頭の中でリピートする。


冷静なのは外面だけだ。

内心は不安で堪らない。





(この駅は…関係ないようだな…ならなんで、わざわざあの人数を…)

「アイリス…一度ホームに戻ろう」

『うん?』

「鉄の森の奴等に、エリゴールの行く手を訊くんだ」





流石エルザ。私とは違って冷静に判断出来たらしい。

そうだ、何もエリゴールに訊かなくても、さっきエルザがボコボコにした奴等がまだわんさかいるじゃないか。

脅せばきっと、なんとか、





『……あれ?脅すの?』

「一刻を争うんだ。手段は択んでいられない」


(鬼ですかアンタ)



















近くの自販機でボトルに入ったお茶を買ってきて、一口飲む。

今日はうっかりの漏電含めたくさん電気つかったからなー…


エルザ程ではないだろうが、少し疲れがたまっている。




「知らねえんだよ…む…無理だって…。

 魔風壁の解除なんて……オレたちができる訳ねえだろ…」




ポケットからコードを取り出し、近くの電気がありそうなところに繋いで、その反対側を口にくわえた。

あたし専用の、充電器。

ピリッとした感覚が脳髄に響き、直後に甘い痺れと共に蜜のような味が口に入る。


あたしが全力で休憩しているにも関わらず、エルザは険しい表情で…脅している。




「エルザー!!!アイリスー!!!」

『んぅ?』

「グレイか!?」




きゅぽんとコードを抜き、一つ上の階にいるグレイを見た。




『ふあれ?ナツくんは?』


「はぐれた。つーかそれどころじゃねぇっ!!!

鉄の森の本当の標的はこの先の町だ!!!じーさんどもの定例会の会場…

奴はそこで呪歌を使う気なんだ!!!」




「だいたいの話は、彼から聞いた。しかし今、この駅には魔風壁が、」

「ああ!!さっき見てきた!!無理矢理出ようとすればミンチになるぜ、ありゃ!!」

『あぁ、確かに痛かったよねあれ』


「!?入ったのかよアイリス!!?」

『試しにな。あたしは傷は治したから結果的にはエルザの腕の方が重傷』

「…そっか、お前人の怪我は治せねえんだっけ?」



『……で、どうするエルザ』




上手い言葉が見つからず、さり気無く話題を逸らす。

こうしている間にも、エリゴールは総長(マスター)達の元へ向かっている。

倒れている奴等も…魔風壁の消し方は知らない。


各言うあたしも、魔法の解除は人体へのモノしか出来ないワケで…




「!」

「ん?」


「そういえば、鉄の森の中にカゲと呼ばれていた奴がいたハズだ!!!」

『あぁ、あの列車の…』

「奴は確か、たった一人で呪歌の封印を解除した!!!」

「解除魔導士か!!?それなら魔風壁も!!!」




どうやら、光明が見えてきたようだ。

呪歌程の協力な魔法の封印を解除したんだ、単なる風の魔法の一種くらい、出来るだろう。


あたしたちは急いでカゲを探しに走り出した。







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