FT夢

□02
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いい感じに茹で上がったパスタを口にしつつ、視線はあちらこちらへと移る。

この二年で内装が大きく変わったところはなさそうだ。

二階に上がれないのも相変わらず。




「う〜ん…」




依頼板の前で口元に手を当て悩んでいる…ルーシィちゃんだっけ?

彼女は沢山ある依頼からどれを選ぶか迷っているようだ。

パスタを食べている私を嬉しそうに見つめていたミラがルーシィに優しく、




「気に入った仕事があったら言ってね。今は総長(マスター)いないから」

「あれ?本当だ」

『あー…そういえば定例会だからいないんだよね』


「定例会?」

「地方のギルドマスターたちが集って、定期報告をする会よ」




少し分かり辛いギルドの仕組みを、ミラがリーダスから借りた光筆(ヒカリペン)で説明図を描いていく。

フォークでパスタを弄びながらあたしも少し説明をする。




「魔法界で一番偉いのは、政府とのつながりもある評議員の10人。

魔法界におけるすべての秩序を守る為に存在するの」


『…犯罪を犯した魔導士を裁くのもこの機関。お偉い方は頭の固い連中ばかりだけどネ』




その下にいるのがギルドマスター。

評議会での決定事項の通達、各地方のギルド同士の意思伝達(コミュニケーション)の円滑…

私達ギルドのメンバーをまとめるのも含めたのが、総長(マスター)の仕事。




「まあ……大変な仕事よねぇ」

「知らなかったなぁー。ギルド同士のつながりがあったなんて」

『ギルドの連携は超大切。疎かにしてると…』



「黒い奴等が来るぞォォォ」

「ひいいいっ!!!!」

『おはよナツ』




時間的にはもうお昼だが、私はワリと寝起きなのでおはようで構わないだろう。

背後から突然ナツに驚かされたルーシィは声を上げる。




「うひゃひゃひゃっ!!!“ひぃぃ”だってよ」

『大丈夫?』

「もォ!!!おどかさないでよォ!!!」


「ビビリルーシィ、略してビリィーだね」

「へんな略称つけんなっ!!!」


「でも、黒い奴等は本当にいるのよ。連盟に属さないギルドを闇ギルドって呼んでるの」


「あいつ等、法律無視だからおっかねーんだ」

「あい」

「じゃあ、いつかアンタにもスカウト来そうね」

『何度も仕事邪魔されたよ、まったく……はむ』




溜息を吐き、フォークに絡めたパスタを頬張る。

「おかわりあるからね」と優しく笑うミラに『んー』と告げて空になった皿を渡して『パフェ』とせがんだ。



「相変わらず喰うな…」

『おー。おはよグレイ』

「はよ。一応訊くけど、それは朝飯か?昼飯なのか?」

『……朝昼飯』

「んだそれ」




くしゃくしゃと頭を撫でられ、背中のリボンが大きく曲がる。

撫でられるのはイヤではないから特に抵抗しないが…後で髪を直すのも面倒だ。

パシッとグレイの手を叩いて払いのける。




「……痛ェ」

『後ろ、見なよ。髪の毛ぐっしゃぐしゃ』

「……………」




そう言うとグレイはあたしの髪を一筋すくって、目を細めた。

と、何がしたかったのか、彼はそれを束ねてあるリボンを勢いよく引っ張った。

当然、それはバサリと解ける。




「……あ」

『そうか、お前は馬鹿なのか…』

「わ、悪ィ!!!」

『……ハァ』




皿の端にフォークを置くと、グレイからリボンを奪って口にくわえ、髪を結いなおす。

ゴムを使わずリボンのみで緩く結ってるだけだから、それ程手間はかからないが…。




『あっちいって』

「むっ……」




少し力を入れて睨んでやると、グレイは大人しく離れていった。

再びフォークを握って、パスタを頬張った。





「グレイはいいの?」




ミラがアイリスちゃんスペシャル(イチゴパフェ+えびフライ+なっとう)を運びながら、心配そうに見つめてきた。




『いい』

「でも、アイリス…」


『世話になったのに、黙って出てったんだ…今更――相棒面は出来ないよ』




正直、彼とはどう接したらいいのかイマイチ距離感がつかめない。

二年前はチームだったし、お互いが最高の相棒だという自覚はあったと、思う。

でも――――




(…今は?)




そんなことを考えていると、食欲がなくなって。

フォークをそっと置いた。


ごめんねミラ、と謝ると、彼女は小さく首を振ってお皿を下げた。

胃が、痛い。




…ズシィン――ズシィン―――!!




(地響きみたいな痛み方だなあ…今日は早めに帰った方がいいか)




ズシィン…ズシィン……




(………あれ?)




地響きのようなそれは徐々に大きさを増して、近づいているような気がした。




「ナツ!!!グレイ!!!…アイリス!!!」

「「あ?」」


「マズイぞっ!!!」

『何、が?』



「―――エルザが返ってきた!!!!」

「「あ゙!!!!?」」

『っ!??』




その言葉を聞いて、あたしはダッシュで机の下に隠れた。

ズシン、ズシンという地響は、一際大きな音を最後に止まった。

机の下からでも見える。

あの、美しい緋色の髪が。


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