FT夢

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その日は何故か、目覚めた時に家の中にナツの姿はなかった。

いや、普通他人の家に無断で入るのって事がありえないのだけれど…

慣れてきてしまっている自分が、少し怖かった。




「(もうギルドに行ったのかな)」




クローゼットから取り出した服に袖を通しながら、寝ぼけている頭でボンヤリ考えた。

朝ごはんはあっちで食べればいいか、そう思って軽く身支度をしてそのまま家を出る。


空は雲一つない青空で、こんなに綺麗な空を見たのはいつ以来だっけとか考えているうちに

こんなに綺麗な空は生まれて初めてだという結論を出した。














ギルドにつけば、案の定、テーブルの上で胡座をかいて座っているナツがいた。

何やらその周りには人だかりが出来ていた。

あのグレイでさえ、その傍にいるなんて。




「おはよナツ」

「おおっルーシィ!!見ろよコレ!!!」




そう言ってナツが差し出した素っ気無い紙切れに目を通すと、コレまた素っ気無い文字が書かれていた。





《 そのうち帰る 》





ただそれだけが書かれた紙を見た後、再びナツに目をやる。

にっこにっこと嬉しそうに笑うナツに、「これがどうかしたの?」なんてとても訊けない。



「アイリスが帰ってくるのよ」



助け舟を出してくれたのはミラさん。

グラスを磨きながら笑顔を向ける彼女に、アイリスとは誰かを問えば、簡単な答えが返ってきた。




「とっても素敵な女の子よ」




アバウトすぎる回答に余計に混乱してしまう。

分かったことは女の人というだけだ。




「ど、どうして皆はあんなに嬉しそうなんですか?」

「それは、皆アイリスが大好きだからよ。それに…」

「それに?」

「あのコが帰ってくるのは二年振りくらいだからぁ」


「に、二年も仕事に!?」


「正確にはいろんな仕事をギルドに帰らないでこなしてるの」




一応、仕事が終わる度に連絡が来るらしい。

それでも二年間も仕事に走るなんて…ナツも見習うべきじゃないかしら…。

ナツ、そういえば彼はどうしてあんなにも喜んでいるのだろうか。


あの手紙(?)だって、彼の元に届くなんて。




「ナツとは親しいんですか?アイリスさんって」

「アイリスもドラゴンに育てられたから…通じるものがあるんじゃないかしら?」

「!?」

「あ、アイリスは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)じゃないんだけどねぇ」




にこやかにそう告げたミラさんは、グラスを一度置き、別のグラスに持ち替えて再び磨きだす。

そこまで聞いてさらに興味が出てきたあたしの後方…ギルドの入り口の方で声がした。




『ただいま』




その声がギルドに聞こえた瞬間、一瞬でギルドが静まる。

決して大きくはないその声量に、みんなが耳をたてるかのように。




「―――アイリス!!!」




ナツの呼ぶ声を掛け声にしたかのように、全員が彼女を取り囲む。

行き成りのそれに驚いたのか、彼女――アイリスさんはビクリと肩を揺らした。


わいわいと揉みくちゃにされ目を回す彼女が、…消え、た?




『…ったく、びっくりするだろ』




ビックリしたのはコッチです!そう言いたくなるような事が起きた。

気がつけば、ナツや皆の取り囲む中心にいたハズのアイリスさんは、あたしの背後に居て。

明るくて地を滑りそうな程長い髪が、僅かに揺れる。


…え?




『だからナツに手紙を送るのはイヤだったんだよ…“絶対に誰にも広めねーから帰る前に手紙寄越せ”とか言って…』

「悪かったって!!でもおかえり!!」

『くそっ…先に謝られたら怒れない…って、うん?』




あたしの存在に気がついたアイリスさんは、途端に目をぱちぱちと瞬かせた。

ナツが何事かを彼女の耳元で囁き、納得したような表情をした後に、ゆっくりと近づいてきた。




『ハジメマシテ。ルーシィっていうの?』

「あ、はい!最近ギルドに入れて頂いて…」

『聴いてるかもだけど、あたしはアイリス。あ、敬語とか止めていいよ』

「え?」




じゃあ…とおずおず「アイリス…?」と呟いた。

満足そうに頷いたアイリス。


そういえば、さっきからこの人――ポーカーフェイスなのか――全然、表情が変わらない。


キョロキョロと周囲を見渡し、アイリスは首をかしげた。




『…あの人はいないみたいだね?』

「?誰の事だ?」

『ナツの苦手な女王様…姿がないから、』


「…オラっ!どけっテメェ等……アイリス!!」




アイリスを取り囲む皆を押しのけ顔を出したのは…グレイだ。

そういえば、グレイも彼女の帰りを待っていたような…


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