FT夢
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ヒビの入った懐中時計を一瞥して、少女は目を閉じた。
銀のそれは鬼灯のモチーフがスピネルで飾られており、質素ながらも高級感を醸し出している。
ただ―――時が、止まっている事を覗いて。
三本の針全てが重なった状態で、それは時を刻む事を止めていた。
それでも彼女はその時計を見て、何やら意味有り気に笑みを浮かべた。
『まだ…許してはくれないか……』
自重染みた笑みでありながら、彼女の笑みはとても美しいものであった。
焚火の炎がパチパチと燃え上がり、彼女の周囲を覆う木々を風が揺らした。
(最初から)
(全てを知っていたのだから)
120206