独楽駄文(短編)
□雪道
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その夜は満天の星空だった。
修道院の監視の目を盗んで散歩にでかける。
それはユーリにとって、辛い日々のなかでの数少ない楽しみのひとつだ。
このところ外は吹雪いていて、なかなか散歩には行けなかった。
今日やっと晴れて、久々の外出。ユーリの機嫌は良かった。
それに、今夜の散歩はいつもと少し違う。
お気に入りの新入りを誘ったのだ。
その子は、カイという名だ。
仲は良いし、いつも一緒にいるのに、カイを散歩に誘うとき、ユーリは何故だか緊張していた。
ドキドキしながら誘ってみたら、カイは嬉しそうに頷いた。
その笑顔をみたら、もっとドキドキして、ユーリは胸が破裂しそうだと思った。
秘密の散歩道。
闇に煌めく白銀の世界を、手をつないで歩く。
両親と離れてから、誰かと穏やかな時間を過ごすことはなかった。
いま、カイと過ごすこの時間は、この上なく優しい。
ユーリに手をひかれながら楽しそうに弾む、カイの笑い声。
その響きは、ユーリの悲しみと共に雪に溶けていく。
大切なものを亡くさないように、壊れてしまわないように、ユーリはカイの手をしっかりと、けれど優しく握った。