独楽駄文(長編)

□5.心の記憶
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世界大会が始まり、数日が経過した。
間もなくアメリカから出発しなければならない。
ホテルで荷物をまとめながら、ふと、初日のことを思い出して、ニヤリと口元が歪んだ。

カイがBBAではなく、ネオボーグを選んだことを知ったときのカイの元チームメイト達の反応。
あの時、今までにない優越感を感じた。
カイのパートナーが木ノ宮ではなく俺であるという事実。
たとえそれが、木ノ宮と戦うためだったとしても。
お互いに互いを利用しているのだとしても。

いまカイの傍にいるのは俺だ。
そうだ、いまだって振り返れば一緒に荷物を整理しているカイの背中が見えるだろう。
そう思って、チラリと振り返ってみると、何故か目が合って驚いた。

「カイ・・・、もう終わったのか?」
「・・・いや、・・・もう少しだ」

すぐに背中を向けて、再び作業に戻るカイ。
たまにこういうことがある。
なんとなくカイを見ると目が合う。
目が合うとすぐに逸らされるし、何か用かと尋ねても何も無いと言う。
向こうは何でも無い風にしているが、こっちは結構気になるのだ。
果たしていつ頃からそうだったかと思えば、ロシアでの世界大会で初めて会ったときからだ(この場合、再会と言うのかもしれないが、幼い頃の記憶は俺にはあまり現実として感じられない)。

以前は余り気にならなかった。
カイを変わった奴だとも思ったし、気に入らないこともあったが、カイが自分をどう思っているかなんて考えたこともなかった。
なのに、今、気になって仕方ない。

カイを見れば見るほど、木ノ宮の影が映る。
タッグを組んでいるのは形の上だけなのだと思い知る。
強く在らねばカイを繋ぎ止めることが出来ない。
そんな思いに捕らわれて、俺はいつの間にかカイの言動に振り回されるようになった。

「・・・ユーリ」
「・・・何だ」
「はぁ・・・お前のほうこそ何だ」
いつの間にこっちを見ていたのか。
ため息をつきながら問いに問いを返された。
何だとは何だ!
心外だと言わんばかりの俺に、またため息をついてカイはたずねた。
「何故さっきから俺を睨んでいる?」
「睨んでなどいない」
「言いたいことがあるならハッキリ言え」
困った。
今日はご機嫌斜めだな。
考え事をしていただけなので、言いたいことなんて無い。
でもここで何か言わないとまずそうだ。
頭をフル回転させる俺。
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