独楽駄文(長編)

□2.春が来るよ…
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「いけ!ドラグーン!」
「弾き返せ!ウルボーグ!」
3月の下旬、龍心剣道場の庭先で激しくぶつかり合う二つのベイ。
戦っているのは木ノ宮タカオとユーリ=イヴァーノフ。

「まさかわざわざ日本に来てまでタカオに再戦を申し込むとは・・・」
感心しながらパソコンのモニター越しに観戦するのは私。キョウジュです。
「決勝戦でのユーリは肉体改造の影響で無我状態でしたが、果たして通常のコンディションではどれほどの実力なのか…。貴重なデータが取れそうです」
またとないチャンスに興奮する気持ちを抑えてデータを収集する私。
周りにある物まで吹き飛ばしてしまいそうな程激しいバトル。うっかりすると私も危ない。それにしても・・・ここに来た時のユーリ=イヴァーノフの表情が、あの時無我状態であったことを差し引いても穏やかになった、と思うのは私の思い違いでしょうか?


「いいバトルだったぜ。ありがとな!」
「ああ…」
バトルはタカオの勝利に終わり、握手を交わす2人。
「またお前とバトルできて良かったよ。前のときは何か純粋に戦ってる感じしなかったからさ。来てくれて嬉しかった」
「木ノ宮・・・」
ふっと笑うユーリは、やはりあの時とは別人のようです。
「それで、この後はどうするんですか?日本にはタカオと戦うためだけに来たのですか?」
ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「いや…実はまだしたいことがある」
そう言った後、一瞬ユーリは先を言いよどんだ。
「お前たち、火渡カイの居場所を知らないか?」
「カイの?うーん、アイツなら・・・確か両親のところに帰ったって聞いたけど、住所までは分かんないや。悪りぃ」
「そうか…。いや、こっちこそ突然押しかけて悪かった」
冷静な表情は崩さずに答えるユーリの声は心なしか残念そうで・・・。
「大転寺会長を訪ねてみてはどうですか?会長なら連絡先ぐらい把握しているでしょうし」
「大転寺会長か…」
ユーリの表情が沈む。
ああ、そうか。ロシアでの事件を気にしているんですね。だからカイのことも聞き辛かったんだ。タカオもそのことを察したのか、私に笑いかけて相槌を打った。
「会長には俺達からもお願いするからさ、一緒に行こうぜ」
その言葉にユーリは目を瞬かせ、すまない、と言った。
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