黄泉

□銀の色に捕らわれて2
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「おい、篤」

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえたきがする。
幻聴だと思いたい自分としてはここで少しでも反応をみせてしまえば、彼の思うがままへと事態に陥ってしまうことだろうから、あえて無視をしていれば。

「丸眼鏡をかけた弟溺愛すぎる宮本篤」

とハッキリ大きな声で言われて、忍び笑いが聞こえてくる。
しかも隣りで一緒に話していた友達もまた、顔を逸して肩を震わせていた。

「…なんといったかなあの女…」

ぽつりと言われて、いけないと分かっていてもぴくりと反応してしまう。

それが分かったのか、彼はさらに言葉を続けてきた。

「2−A、…たしか…名前は涼子といったかな…?」

「…………」

「知っているか、諸君、そこの堅物ともいえる、宮本篤は」
「うわわああああ!!」


ガッタンとイスを倒して立ち上がると、一目散に彼を掴んでその場から逃げる。
恐ろしいと思ったのはこれだけではない。
未だに誰にも話したことのない、密かな胸の内を全てを見通すかのごとく、暴いてくる。
たしか彼は一週間前に転校したてだと思っていたのは間違いだったか。
一体どこからそんな情報を入手してくるのか、その情報源となる輩を即刻なんとかしなくては。

そんなことをふつふつと考えていれば、今まで大人しく引きずられるままだった彼が突如立ち止まる。

「どこまで行く気だ。」

教室から校舎から離れて、いつの間にか校舎裏に来ていたようだ。

「…い、いつ、…知ったんだ?」

取り敢えず聞いておこう。本当に誰にもむしろ弟にすら言っていない事実をなぜコイツが知ってるのか。

するとうっすら笑うと。

「昼休み、屋上に来い」

「は?」

なんだそれは?
宣戦布告なのか。
まさか決闘とかそんな旧世代みたいなことを言うんだろうか。

は!?

そうか、そういうことか。
きっと彼は彼女に一目ぼれでもして…。

「分かった」

うなずくと彼は満足げに去っていった。

決意を胸に、見送るように立ち止まっていると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。

やっと授業が始まっていることに気付いたのは、それから数分すぎた後だった。


「遅いぞ、宮本」

「すみません…」





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