Series『桜〜羅刹〜』

□IF〜もう一つの七年後〜
1ページ/4ページ



明治10年4月―・・・
二人の住んでいる隠れ里が遅い春を迎えた頃。

「よく眠っていますね。」

「えぇ、本当に。」

山南敬助と葛木桜華は、息子の敬人の傍に座り寝顔を見ていた。

「桜華、ありがとうございます。」

「何ですか、急に。」

「私にこのような幸せを与えてくれて。」

山南は寝ている息子の頭をそっと撫でる。

「敬助さん、私の方こそお礼を言わせてください。
 あの時から、私は女としての幸せを得ることに諦めていたから。」

あの時とは、桜華が鳥羽伏見の戦いの最中、変若水を飲み羅刹となったことである。

「此処にくることは賭でしたが、その賭に勝ったということですね。」

「そんな事言って、敬助さんのことだから、勝てる確証を持っていたんでは?」

「持っていませんでしたよ。
 何せ、変若水には効果が認められていましたが、変若水を飲んで羅刹となった体に効くかどうかは、解っていませんでしたし。」

「本当に?」

「えぇ、本当です。」

二人は目を合わせ、微笑み合う。
だが、すぐ山南は険しい表情になり、

「敬助さん?」

「申し訳ありません。
 少し一緒に来ていただけますか?」

そう言いながら、立ち上がる山南。

「わかりました。」

桜華も山南を追って立ち上がる。

.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ