Series『桜〜羅刹〜』
□IF〜もう一つの七年後〜
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明治10年4月―・・・
二人の住んでいる隠れ里が遅い春を迎えた頃。
「よく眠っていますね。」
「えぇ、本当に。」
山南敬助と葛木桜華は、息子の敬人の傍に座り寝顔を見ていた。
「桜華、ありがとうございます。」
「何ですか、急に。」
「私にこのような幸せを与えてくれて。」
山南は寝ている息子の頭をそっと撫でる。
「敬助さん、私の方こそお礼を言わせてください。
あの時から、私は女としての幸せを得ることに諦めていたから。」
あの時とは、桜華が鳥羽伏見の戦いの最中、変若水を飲み羅刹となったことである。
「此処にくることは賭でしたが、その賭に勝ったということですね。」
「そんな事言って、敬助さんのことだから、勝てる確証を持っていたんでは?」
「持っていませんでしたよ。
何せ、変若水には効果が認められていましたが、変若水を飲んで羅刹となった体に効くかどうかは、解っていませんでしたし。」
「本当に?」
「えぇ、本当です。」
二人は目を合わせ、微笑み合う。
だが、すぐ山南は険しい表情になり、
「敬助さん?」
「申し訳ありません。
少し一緒に来ていただけますか?」
そう言いながら、立ち上がる山南。
「わかりました。」
桜華も山南を追って立ち上がる。
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