Series『桜〜羅刹〜』
□壱拾弐
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慶応4年8月21日−・・・
母成峠の戦いが始まった。
旧幕府軍 大鳥圭介の読み通り、新政府軍の主力2000は会津へ母成峠からやって来たのである。
旧幕府軍を中心に布陣していた為、武器は最新鋭のものを備え、近代戦に慣れていたゆえ、なんとか食い止めている様に見えたが・・・
新政府軍が陣の側面から攻撃をしかけ、母成峠の陣は一気に崩れた。
「斎藤さん!」
「あぁ。」
葛木桜華に声をかけられる前もなく、状況が厳しいことが斎藤一にもわかっていたが、それでも手を休めることはできなかった。
「斎藤さん、葛木君!」
「島田さん!どうしました?」
土方歳三側で戦っていた島田魁がやってきた。
「大鳥さんからの伝令で、撤退するようにと。」
「わかった。」
しかし、この状況下の中、撤退すら厳しいことになっていた。
「斎藤さん、私が殿を・・・」
桜華が言いかけた時・・・
「我々が殿を勤めます。」
「正木さん!」
「貴公らの撤退する時間ぐらいは稼いでみせましょう。」
「馬鹿なことを言うな、敵は大群だ。」
斎藤の言葉に正木は、
「新選組は我ら会津の為に、力を尽くしてくれた。
ここで死なせるわけにはいかない。」
「君はまた死に急ぐつもりか。」
「貴公は前にいった。
命の賭け所を間違えるなと。
ここは我々命の捨て所・・・貴公らを守るための礎となりましょう。」
「駄目です。
こういうときは、私の方が適任です!」
そう、羅刹の力を使えば死ぬことはない。
山南敬助との約束を破ることにはなるが・・・このままでは、全滅だ。
だが、正木は桜華の言葉に対し、
「葛木殿、おなごの貴女に無理をさせるわけにはいかない。」
「いつから・・・」
「そんなこと、いいではありませんか。」
柔らかく微笑む正木は、直ぐ様斎藤の方を向き直り、斎藤をまっすぐ見つめながら・・・
「斎藤殿、会津を容保公を・・・お頼み申します。」
「正木様!」
そこに白虎隊の少年達も付いていこうとする。
「お前達は来るな!
残って会津を守れ・・・新選組と共にな。」
そう言って、正木達は敵の方へ駆けていった。
「正木様!」
尚も付いていこうとする白虎隊の少年達に斎藤は、
「彼らの思いを無駄にするな。」
彼らを抱き止めつつ、説得をする。
「斎藤さん、私も行かせてください!」
桜華は尚も食い下がろうとするが、斎藤は。
「葛木!」
否定を込めて、語調強く名前を呼ぶ。
その一言で、斎藤も同じ想いなのに気が付いた桜華は唇を噛みしめる。
「さぁ、行きましょう。」
島田が取りなすように声をかけると斎藤は頷き、白虎隊の少年達を連れて走り出す。
桜華もそれを追うように足を踏み出すが、心残りのように正木達が駆けていった方を振り向く。
「葛木君。」
島田が声をかける。
一旦、目を伏せ、すぐに前を見つめると。
「行きましょう、島田さん。」
こうして、桜華達はその場を撤退していった。
母成峠の戦いは、他の峠から援軍が来たものの、結局敗走を重ね、その日の内に会津側の完全敗北になった。
こうして、新政府軍は会津若松への道を確保したことになる。
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