Series『桜〜羅刹〜』

□捌
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新政府軍が江戸近くまで迫っている事もあり、昼間の野営中に葛木桜華が近辺を先行して情報を集め、夕方ごろ合流し進軍道順を決めて進んでいった。

「葛木君、ほとんど寝ていませんが、大丈夫ですか?」

顔色の悪い桜華に、気遣う様に山南敬助は話しかけた。

「えぇ。でも、東北地方に入れば、ここまで警戒して進まなくても大丈夫ですから、それまで頑張りますよ。
 それに、この調子なら今夜中に入れそうですしね。」

「それも君がしっかり調べてくれているお蔭で、無事進めてるわけですし。」

「そうでもないですよ、羅刹の行軍はやはり速いと思います。
 もう1、2日は覚悟してましたから。」

「やはり羅刹は人より体力・脚力が優れているということでしょう。」

「なるほど・・・
 ところで、山南さん、質問があるのですが・・・いいですか?」

「答えられる内容でしたら。」

「身近にいる羅刹は、山南さん、平助、土方さんぐらいだったので、今まで思わなかったのですけど・・・
 他の羅刹の方々は、昼間ほとんど動けない様子だったのですが、何か・・・違うのですか?」

「ふむ・・・やはり気が付きますか。」

「というと・・・何かわかっている事があるのですか?」

「確証の持てている話ではないのですが・・・」

そう前置きをして話し出した。
山南が言うには、毒性を薄める為に研究した、後期の『変若水』を飲んでいる隊士程、昼間比較的動けるようだったが、根本的には「心の強さ」つまり「意志」に関係するのではないかということだ。
普段から自分の中の羅刹の力をコントロールするのは、意志という力が必要で、昼間動く動けないというのも、その差が出ているのではないか、ということだった。

なんとなく心当たりが桜華にあった。
何度か羅刹隊の戦うところを見たことがあったが、山南や藤堂平助が羅刹となって戦っていても、人としての意識が強い気がしたが、他の隊士は羅刹としての意識の方が強く・・・正直、桜華は彼らを人とは思えなかった。
なので今の山南からの話を聞いて、意志の力という意味で、やはり元幹部は強いのだろうと納得した。

そして、山南はある程度確信が無ければ口に出さない。
ということは、かなり確信めいた話と言う事だろうと桜華は判断した。

「そう考えると、鋼道さんが作った・・・昼間も動ける羅刹・・・おかしな感じしますね。」

「どういうことですか?」

「私が戦った時に、彼らに意志があるとは思えなかったんですよ。
 刀を合わせた時に思ったのですが・・・人としての意志が無いというか・・・
 上手く言えないのですけど、羅刹としての本能のみで戦っている・・・そんな感じを受けたんです。」

「・・・」

「その上、血にすぐ狂う・・・」

「本当ですか?」

「えぇ・・・
 あの時、あんまりにもあっさりと狂った羅刹が居たので、おどろきました。」


そう、その狂った羅刹は倒れている自分の仲間の血を啜るという、なんとも言えない光景を見せつけた。
桜華の話を聞いて、山南は少し眉をひそめる。

「山南さん・・・何を考えてるのですか?」

「いえ、何でもありませんよ。」

そう言ってほほ笑んだっきり、黙り込んでしまった。
桜華は横に居る山南の顔を見る。

『何を考えているんだろ?』

信じてくださいと言われていたが、気持ちが読めない山南に対して不安を感じ初めていた・・・

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