Series『桜〜羅刹〜』
□肆
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甲府への出立が決まり、土方歳三は鳥羽伏見の戦いの敗戦を踏まえて、新選組の洋式化を進めていた。
武器・弾薬の数々が新選組屯所に集められており、そして、服装も・・・
「希望した隊士の皆さんに、洋装を配ってきましたよ。」
葛木桜華は、洋装に着替えた幹部が集まっている広間へ戻ってきた。
「あ、桜華さん!
桜華さんも洋装になったんですね!」
洋装の幹部の間で、動き回っていた雪村千鶴が駆け寄ってきた。
「千鶴ちゃん、おはよう。
そうなんだ、土方さんのご指示でね。」
「あ、おはようございます。
そうなんですねぇ、でも髪が・・・」
桜華の髪型は、他の洋装になった幹部のように髪を切っておらず、前と変わらず長い髪を後頭部の高い位置に結われたままであった。
「あぁ、これねぇ、もう監察として女装することもないだろうし、邪魔だから切ろうとしたら止められちゃってさ。」
苦笑しつつ答える桜華に、その場にいた幹部全員が・・・
「「当たり前だ!」」
「というわけ。」
と桜華は肩を竦める。
「もう少し女性ということを自覚した方がいいですよ、君は。」
そういって、山南敬助が奥から現れる。
『う・・・、山南さん、やっぱり洋装似合う・・・』
その姿を見た、桜華が少し顔を赤くして、目をそらす。
「そうだ。
それに髪は女の命っていうじゃねぇか、大事にしねぇと。」
「桜華だったら、その髪型でもおかしくないから、大丈夫だよ。」
「これが、俺らとかなら、おかしくて笑っちゃうけどな。」
じゃれ合っていた原田佐之助や藤堂平助、永倉新八が山南の言葉を聞いて、言葉を付け足す。
「そ、そうかなぁ。」
その言い分に、桜華はちょっと不満な顔を浮かべる。
「そうですよ。
せっかく綺麗な漆黒の髪ですし・・・
桜華さん、長いままでも良くお似合いですよ。」
千鶴がそれに同意する。
「そう?そうか・・・
ありがとう千鶴ちゃん。」
千鶴に微笑みながら答えると、千鶴が顔を赤らめる。
『『千鶴・・・そこは、顔を赤らめるところじゃないだろう。』』
『『というより、なんで桜華は千鶴の言うことなら、納得するんだ?』』
その場に居た幹部全員が心の中でツッコミを入れた。
そんな中、近藤勇が部屋に現れた。
「皆、準備はできたか?」
「近藤さんは、洋装じゃないんですね?」
千鶴が素直に疑問を口にする。
「やはり、武士たる者、袴と腰に刀を差していないと締まらない気がしてなぁ。」
「あんたは、それでいいんだよ。新選組の頭として堂々としてくれれば。」
土方が近藤の言葉に同意する。
「それに、幕府の頭の固い方々と会う時に丁髷無いと困るからね?」
と桜華が悪戯な笑みを浮かべ、千鶴の背後から肩に手を置いて耳元で囁く。
「おいおい、聞こえてるぞ。」
苦笑しながら、近藤が桜華を窘める。
その様子を見て、広間に笑いが広がった。