Series『現桜』
□The 18th.「捻挫(3)」
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桜華は山南に部屋まで送ってもらい、玄関先に置いた荷物を部屋まで時間はかかったものの自力でなんとか運び入れ、服を着替えて落ち着いた。
とりあえず、やる事も特にないので(捻挫で動けないのもあるが)、ベットの上に転がる。
『さて・・・どうしたものか・・・』
色々と問題がある・・・飯とか・・・洗濯とか・・・他にも独り暮らしの身なので、この足でどこまで出来るかと考えていた時の事であった。
珍しくインターホンが鳴る。
『誰だ???』
ココに来るのは基本、叔父以外ありえない。
だが、まだ叔父が来るにしても、時間が早い(普通ならまだ仕事を行っている時間の為)。
そもそも一応、気を使って連絡を一本入れてくるはずだ。
『とりあえず出るか』
立ち上がり(片足で)インターフォンがある所に行き、出てみると・・・
「た、たまちゃん!」
インターフォンの画面いっぱいにたまの顔が・・・
『ど、どゆことー!』と驚いていると、すぐに近藤たまの顔が退き、近藤つねが出てくる。
「つねさん!ど、どうしたんですか?!」
つねはにっこりと微笑み、そのままインターフォン越しに話し始める。
「ふふ、突然ごめんなさいね。
悪いけど、入れてもらえるかしら?」
「は、はい!」
桜華は慌てて、マンションのロビーのロックを外す。
それから、玄関まで行き、つねたちの到着を待って、鍵を開けた。
「つねさん、どうしたんですか?
っていうか、なんでここに?」
「急に来てごめんなさい。
桜華さんが怪我をしたと聞いて・・・」
「あー、とりあえず中にどうぞ。」
つねとたまを部屋に向かいいれた。
「てきとーに座ってください。
何か飲み物を・・・」
そう言って、台所に向かおうとすると、つねが止める。
「桜華さん、怪我をしているのですから、気を使わないでください。」
「え、でも・・・」
桜華は少し困惑した声を出す。
「ふふ、何のために私が来たと思っているのですか?」
「え?」
「桜華さんが怪我をしたと聞いて、やってきたのですよ。」
「へ?」
「ですから、山南さんから、貴方が怪我をしたと言う事で一人では大変だろうからとお電話を頂いて、こうしてきたのですよ。」
つねは桜華のいつもの癖に苦笑しつつも、訪れた理由を繰り返す。
「はい?!山南さ・・・じゃなくて、山南先生が?!」
「えぇ。」
「あ、いや・・そ・・・」
「で、勇さんにそういうことならばと、うちに来るようにと。」
ニコニコと話す、つねに対し桜華は何とも言えない表情で答える。
「はぁ・・・」
だが直様、ある人物を思い出す。
「あ、あの叔父さんには!?」
「私は、お伝えしてないけど、勇さんが・・・」
その話の途中で、桜華の携帯が鳴る。
恐る恐る見てみると・・・
『や、お、叔父さん!』
携帯のサブディスプレイに桜華の叔父の名前が・・・
桜華がチラリと、つねを見るとにっこりと微笑まれたので、仕方なく携帯に手を伸ばす。
「桜華?!!!」
余りの大きな声に耳から携帯を離す。
「大丈夫かぁ?!!!」
渋々と携帯に向かって話し出した。
「叔父さん、落ち着いて下さい。」
「コレが落ち着いていられるか!
近藤さんから聞いて、肝冷やしたぞ!」
「あ?只の捻挫ですから、大丈夫ですから。」
桜華の声にやっと落ち着いて来る叔父。
「が、しかし、一人では難儀する程と聞いたが。」
桜華は『余計な事を・・・』と心の中で舌打をした。
「大丈夫ですよ、ホントに。」
「お前の大丈夫は信用できん!」
「な!」
「というわけで、うちに来たくないのは分かっているから、近藤さんとこに行く様に。」
有無を言わさないという口調で桜華に言う。
「叔父さん!」
「わかったな。」
「は、はい・・・」
もうこうなっては、言う事を聞くしか無い。
これでも、あの実父の弟である。
普段は父と正反対の性格で温厚なのだが、一度こうなると絶対に自分を曲げる事はない。
こういう所は父とよく似ていた。
「じゃ、まだ仕事が有るから、また連絡する。」
こうして叔父との電話は終わった。
それから桜華が大きな溜息をつくと、 つねが楽しそうに・・・
「さて、準備をしましょうか?」
と、声をかける。
桜華はもう仕方ないと覚悟?を決め・・・
「そうですね、手伝ってもらえますか?」
「えぇ、わかってますよ。」
つねのその笑顔が・・・桜華には眩しかった。
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