Series『桜』
□月を見上げて
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『眠れないな』
昨日、新選組に入隊することが決まり、今日から屯所へ移ってきた。
流石に初日ということで、昨日会ったが幹部の紹介と藤堂に屯所内を案内してもらったぐらいで、特に何かしたわけではないが・・・
『やっぱり緊張してるのかな・・・』
ちょっと外の空気を吸おうと葛木桜華は起き上がって、部屋から出た。
縁側に出てみると、いい月が出ている。
『今日から、ここで・・・』
縁側に腰掛けながら、桜華は月を見ていた。
『おや、あれは・・・』
仕事を終え、自室に戻ろうと山南敬助が縁側を歩いて所、縁側で座って月を見上げている桜華を見つけた。
『ふむ・・・』
昨日今日逢った時の印象とは違い、儚げな雰囲気を醸し出していた。
「葛木君?」
「ひゃ!」
桜華は肩をびくっとさせ驚いた。
「驚かせるつもりはなかったのですが・・・」
「山南さん?」
「えぇ、こんなところでどうしたのですか?」
「ちょっと、眠れなくて・・・月を見てました。」
「あー、今日はいい月夜ですねぇ。」
山南も月を見上げた。
「でも、まだ夜風は冷たい。長いこと居ると風邪を引きますよ。」
「えぇ、わかってはいるんですけどね。」
そういいながら、月に目を戻す桜華を見て、
『何だか、ほっとけませんね。』
山南も隣に腰を下ろした。
「もう、家が恋しくないりましたか?」
「いいえ・・・私には帰る家はありませんから・・・」
桜華は遠い目をして答えた。
「確か、江戸の出身とか?」
「えぇ、父が江戸で道場をやっておりました。」
「それでは、そこで剣を?」
「幼いころから、父に習っておりました。
母が幼い時に亡くなってしまい、常に父に付いて回る為に自然と竹刀を握ってました。」
「そのお父上は?」
「亡くなりました・・・」
「それで、江戸をでたのですか?」
「それは、直接のきっかけでは、ありません。」
大きな溜息をついて、桜華は話を続けた。