Series『桜』

□独白(山南のみ)
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山南敬助は、血塗られた刀を一振りし、血を飛ばした後刀を腰へ納めた。
月夜の晩、仙台城城下で一人の羅刹を切った。




京都に居たころから、隊士の一部が時々抜け出し、血を求め辻斬りをしていたことに気が付いていた。
山南は、それを隠す為、あえて自分に容疑を向けられるように行動をしていた。
新選組の為、羅刹隊の為、自分が悪になるのに躊躇は全くなかったが、彼女のことを思うと胸が痛んだ。

私を信じてると言ってくれた彼女

私と共に居たいと言ってくれた彼女

私のことを愛していると言ってくれた彼女

いつしか自分自身も彼女を愛しく想い、気が付いたら大切な存在となっていた。
けれども羅刹の狂気に犯されていく自分が、彼女を傷つけたくなくて、涙を流させたくなくて、
あえて突き放そうとしたが、それでも彼女は私の傍から離れなかった。

『そして、私も貴女を手放せなくなってしまいましたね。』

彼女の声が、姿が、香りが、ぬくもりが・・・自分の中の人という存在を支えてくれた。
羅刹の狂気犯されることなく、今の自分がここにあるのも、彼女のお蔭なのかもしれない。

『ですが・・・』

自分にはやるべきことがある。
新選組の為、羅刹となった隊士達の為にこの地で決着つけることの覚悟を決めた。

『私の寿命もあとわずか・・・』

もう一度羅刹としての力を振るえば、寿命が尽き、自分の体は灰になるだろうとわかっていた。
死ぬ事は怖くなかったが・・・たった一つのこと以外・・・

『貴女を残して、この世を去るのが心残りです。』

『貴女は強い。だが、非常に脆い。』

自分が居なくなった後の彼女を思うと、心が痛む。
何かできないか・・・考えいたが、何も思い浮かばなかった。




苦悩した表情を浮かべ、

「貴女を選べない私を許してください。」

空を見上げて、呟く。

「いっそ、憎んでくれても、もしくは忘れてくれてもかまいません。」

「貴女がそれで幸せになれるなら・・・」

空に浮かぶ月に向かって、そう願わずにはいられなかった。

たとえそれが叶わない願いだとしても・・・




END

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