Series『現桜』

□The 17th.「捻挫(2)」
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山南が(抵抗を諦めた)桜華を抱え、診療室に入ると・・・

「赤羽先生・・・」

そこに居た医者を見て、少し驚いた声で名前を呼んだ山南。
桜華が見ると、そこには少し長めの黒髪を無造作に結んだ見目麗しい男性が座っていた。

「お久しぶりです、山南先生。」

赤羽と呼ばれた男はニッコリと微笑みながら、言葉を続ける。

「さ、いつまでも患者を大事に抱えてないで、コチラへ。」

しばらく固まったように立ち止まっていた山南は、その言葉でスイッチが入ったように動きだし桜華を座らせた。

「先生、お知り合いなんですか?」

「えぇ、大学時代の・・・」

山南は桜華に答えつつも、目の前の医師・・・赤羽蔵人から目を離さずに。

「赤羽先生、いつコチラへ?」

「つい先日ですよ、赴任先の戦闘が激しくなってしまい、一旦強制的に帰国させられましてね・・・」

「そうでしたか。
 それでも、ご無事で何よりです。」

「ありがとうございます。
 ですが・・・まだ治療中の患者を残すことになってしまい・・・」

安堵するような声色の山南に対し、赤羽は少し悔しげに話す。
二人の会話を黙って聞いていた桜華は恐る恐る声をかける。

「あ、あの戦闘って?」

「あぁ、こちらの赤羽先生は優秀な方で、NGOのとある組織で医師として携わっているのですよ。」

「あぁ、成る程。」

山南の返答に今までの会話と併せて、納得をする。

「優秀なんて・・・それを言うなら、そこの山南先生も充分優秀な方ですよ。」

その言葉に少し赤らめながら、山南は咳払いをする。

「そんな事より、赤羽先生・・・貴方の専門は外科だったはず・・・何故ここに?」

「君が来てると聞きましてね、診療室が一つ空いてましたから、無理を言って入れてもらいました。」

その返答に少し呆れた表情を見せた山南に対し、赤羽はしれっと言葉を続けた。

「まぁそんなこと、いいではないですか。
 それより、いつまでも久しぶりに会った者同士の会話を続ける前に、患者を診ることにしましょうか。」

「そうですね。
 それでは彼女をお願いします。」

赤羽が桜華の応急処置されたものを外し、腫れた足首を診る。

「・・・やはりX線と超音波検査で診た方がいいでしょう。」

赤羽の判断に山南も同意をする。

「そんな酷いんですか?」

二人の医師に言われ、桜華は少し不安になる。

「捻挫の程度を言うのであれば重度に当たると思います。
 ですから、きちんと検査をして治療方針を立てて、治療しましょう。」

「はぁ・・・」

「そんなに不安にならないで下さい。
 大丈夫ですから。」

「はい・・・」

「それでは、すぐに検査をするようにしましょう。
 君、車椅子を用意していただけますか?」

近くにいた看護師はすぐに車椅子を持ってきて、桜華を乗せようとしたが、山南がそれを制止、自身の手で桜華を乗せる。

「検査の準備が出来るまで、待合室でお待ち下さい。」

「はい。」

山南が車椅子を押して、診察室から出て行くのを見て、可笑しそうにクスリと赤羽は笑った。
近くの看護師は不思議に思い、声をかけると・・・

「いえ、あの山南先生があんな態度を取っているのがね・・・」

赤羽の返答に、声をかけた看護師はやはり意味が解らなかった。

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