Series『現桜』

□The 12th.「入学〜前編〜」
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葛木桜華が転入してきて、初めての春が来る。
結局、土方歳三の心配を余所に、山南敬助と桜華の仲は一向に進展せず、逆に生徒会の不知火匡がちょっかい出してきて、非常にややっこしい事になっていた。




「で、どうだ?様子は?」

「代わり映え無いですね。」

土方は、2年1組保険委員の山崎烝を、いつものように古文準備室へと呼び出して居た。

「そうか・・・」

「局長の奥様にもお願いされているとお聞きしましたが、そちらの首尾は?」

「あぁ、それがまったくだ。
 巧くはぐらかされて、中々はっきり聞けないらしい。」

「記憶が無いのはハッキリしてますが、彼女の気持ちが解らないことには、どうしようもないですからね。」

「そうだな。
 つねさんも無理強いするなら、桜華の味方になるって言ってるしな。」

「俺もですよ。」

「だから、こうして確認しようとしているんだ。」

そう言って土方は眉間にある皺を深くする。
その様子に山崎はため息を付きながらも、一つの疑問を口にした。

「ところで、副長はどうされるおつもりなんですか?」

「なんのことだ?」

土方の眉間に皺が一気に寄る。

「雪村君のことですよ。」

「俺の事はどうでもいいだろう?」

土方の様子に、山崎は苦笑する。

「まったく自分のことは、後回しなんですから。」

山崎の一言で不機嫌そうに、煙草に火をつける土方。

「あいつに記憶が無いのは解っている。
 俺としては無理強いしたくねぇし、あいつにはあいつの人生がある。
 それを尊重してやりてぇだけだ。」

「それは総長も仰っていたんじゃないんですか?」

「俺は・・・」

土方は思い出す、自分が最後の時に雪村千鶴と約束したことを。

『もし生まれ変わったら、俺がお前を探し出す。』

とはいえ、こうして見つけだしたというか、生まれ変わって再会したものの、千鶴に記憶は無い。
もし、今生は今生の人生が有るというならば、それを邪魔する権利は自分には無いだろう。
そう思うと、どうしたものかと考えあぐねているのが、土方の実状である。
だからこそ、山南と桜華にはますます巧くいって欲しいと思っているのかもしれないと、土方は思う。

「結局は自分の為なんだよな・・・」

「え?何かおっしゃいました?」

「いや、独り言だ。
 二人の件は引き続き頼む。」

「承知しました。」

「別件だが、もう一人、気にして欲しい人物が居る。」

「誰でしょうか?」

「今年、入学する龍之介だ。」

井吹龍之介ー…
まだ新選組が浪士組と名乗っていた頃、筆頭局長であった芹沢鴨に拾われ、浪士組に厄介になっていた青年だった。
彼も又この時代に転生をし、何かの因縁の様に芹沢の元で世話になっている。

「彼も・・・というと、いよいよ芹沢が?」

「あぁ、龍之介自身は無害だろうが、問題は芹沢だ。」

「ですが、学生の俺では・・・」

「分かっている。
 だから、お前には念の為、龍之介を気をつけてもらいたい。
 芹沢の牽制は、俺と山南さんで引き受ける。」

「承知しました。」


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