Series『現桜』

□The 10st.「思惑〜山崎side〜」
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文久3年9月−・・・壬生村八木邸
俺と島田魁は、土方歳三副長の部屋に呼ばれた。
其処には、土方副長とそこに最近総長となられた山南敬助総長と・・・一人の青年が。

「山崎、島田、こいつが今度入隊した葛木だ。」

副長に紹介された者は、かなり線が細く、背は藤堂組長と同じぐらいだろうか。
身なりはこざっぱりとして、それなりな教育を受けていたのであろうと感じを受けた。

「山崎です。」

「島田です。」

「山崎さんに島田さんですね、葛木です。
 どうか宜しくお願いします。」

「副長、俺達に紹介をするということは、監察の仕事をさせるということですか?」

「うむ、いや・・・葛木はちょっと立場が特殊でな・・・」

「特殊とは・・・?」

副長が言葉を珍しく濁す。
そこに山南総長が言葉を付け足す。

「彼女を流石に直接組に入れるわけいきませんからね。」

「「え?」」

俺と島田君は総長の『彼女』と言う言葉に驚き、思わず間抜けな声を上げてしまった。

「流石のお前等も気が付かねぇか。
 こいつ・・・葛木は女だ。」

副長の言葉に俺達は絶句した。

「まぁ、無理もねぇ。
 最初に見た時、気が付いたのは山南さんと総司ぐらいだったからな。」

ということは、副長も気が付かなかったということか。
それにしても流石、総長である。
やはりこの人は状況を見極める力が高い。
そして、沖田総司組長も勘はいい。
実力もあるが・・・あれがなければ・・・

「まぁ、いくら実力が有るとはいえ、女と知られるのは拙い。
 そう言う理由で立場が特殊なんだ。」

俺は納得した。
副長が『実力はある』と言うのならば、相当の者なのだろう。
例え女性だったとしても、新選組へ入隊させたぐらいに。

「だから、こいつにはお前等の監察の仕事を手伝わすが、それだけじゃなく幹部付小姓の仕事や、組に欠員が出た時にはその組の手伝いもさせる。」

成る程、以前俺がある隊務で女性であれば潜入しやすいのにとコボしたことがある。
それで俺達の仕事を手伝わす事にしたのだろう。
更に剣の実力もあるから、遊ばすわけにいかないと言うことか。

「承知しました。
 葛木君と言ったな、宜しく頼む。」

「最初は慣れないと思いますが、力の限り勤めさせていただきます。」

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