Series『現桜』

□The 31th.「風邪」
1ページ/5ページ



薄桜学園保険医兼事務長 山南敬助と京都で想いが通じあっても2年1組 葛木桜華は、余り変わらない日々を送っていた。
唯一、変わったところと言えば一つは週末の土曜夜に、山南と食事を共にすること、もう一つは桜華のキーホルダーに自分の鍵以外・・・山南の部屋の鍵が増えた事ぐらい。

「何かあった時に、すぐ私の所へ来れる様に。」

と言われ、鍵を渡されていた。
桜華も直ぐに、それに習って山南へ鍵を渡した。
とはいえ、お互いに鍵を交換したが、日々の生活は時間的に重なるものではなく(桜華は部活で、山南も保険医以外に兼務の事務長としての仕事もあり残業も多い)、その鍵を使って互いの家へ行くことも無かった。
そんな或る日の事ー…
桜華は古文教師兼教頭 土方歳三に古文準備室へ呼び出されて居た。

「え?風邪ですか?」

「あぁ、風邪だ。
 あの人、年に1回だけ風邪で大きく体を崩すんだ。」

土方に山南が風邪で寝込んでいる事を桜華は教えて貰っていた。

「で、何で私に?」

「聞いてないだろう?」

「いや、聞いてないですけどね・・・って、な、なんで?」

桜華は焦った。
山南との事は桜華が卒業する迄、秘密にしておこうと二人で決めていた。
勿論、桜華も保険医と生徒の立場を理解しており、京都の件で迷惑をかけた1年 雪村千鶴には詫びと共に伝えたが、誰にも言うつもりも無かったし、バレないように注意を払っていた。

「そう焦るな。
 お前と山南さんに付いては、俺にも責任あるからな。」

土方の一言に思い出した。
京都へ向かう新幹線で土方から電話があり、もしかすると土方も自分の過去・・・前世を知っているのでは?と疑っていたのだった。

「土方先生・・・
 もしかして私の事を・・・」

「あぁ俺も知っている、お前の前世を。」

「そうなんですね。
 あの一つはお聞きしたいことが?」

「なんだ?」

桜華は山南に聞いても教えて貰えなかった事を尋ねて見た。

「前世での私の最後を知ってますね?」

「・・・」

桜華は無言を肯定と受け取った。

「教えて頂けますか?」

「山南さんは何て言ってた?」

「教えて貰えませんでした。
 ただ・・・山南先生の表情を見てたら、知っておいた方がいい気がして・・・」

「そうか・・・」

土方は少し考えるが直ぐに・・・

「山南さんが伝えて無い事を俺が言うわけにはいかねぇな。」

「そうですか・・・」

「桜華・・・お前は記憶が無い。
 だからこそ、今を大事にするべきじゃねぇか?」

「ですが・・・」

桜華が言いたい事は、よく分かる。
共にそうすべきな男は、その過去に囚われており、未だに贖罪の気持ちを捨てきれずにいた。

「桜華、お前なら例え、どんな死に方をしても、あの人を恨む気持ちは出ねぇだろ?」

「当たり前じゃないですか!」

「それでいい。
 根気よく、ソレを伝えていくしか無いと俺は思う。」

「わかりました・・・」

「頼むよ、あの人を。
 お前、次第だ。」

「はい。」

桜華は力強く頷く。
土方はソレを見て、満足そうな笑みを浮かべた。

「だが、その前に風邪を引いているのを何とかしてやってくれ。」

「あぁ、そうだった!」

「オイオイ、ソレを伝える為に俺は呼び出したんだぞ。」

桜華の反応に苦笑する。

「ですよねぇ、じゃ今日、寄ってみます。」

「頼むよ。」

古文準備室を出ると、ポケットから鍵を取り出す。
二つ鍵がついており、一つは自分のだが、もう一つは山南の部屋のモノだ。

「よし!」

桜華は鍵を握りしめ、足早に教室へ戻っていった。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ