Series『現桜』

□The 20th.「海(1)」
5ページ/7ページ



「所で先生、案内所って何処にありましたっけ?」

「もう少し先ですね。」

そう言って少し考え込む様子を見せると、山南はトシゾウの背後に回り「失礼」と一言いうと抱え上げ、そのまま肩車をした。

「おわ!」

トシゾウが驚きの声を上げる。

「この方が目立つでしょう。」

「成る程、でも重く無いですか?」

「コレぐらい大丈夫ですよ。」

一見、山南は細身に見えるが、剣道で鍛え上げられた筋肉がしっかり付いている。
実は、先程から軽く羽織ったシャツの合間より見え隠れする筋肉に、桜華はドキドキしっぱなしだった。
そんな桜華を他所にトシゾウは・・・

「うわぁ、たけぇじょ〜」

喜んでいた。
それから暫く歩くと山南の肩車が効果出たのか、遠くからトシゾウを呼ぶ女性の声が聞こえた。

「トシ!」

「あ、ねーちゃ!」

トシゾウも気が付いて、振り向き答える。
山南と桜華もそれに習って振り向くと、年は桜華ぐらいの少女が走って此方に向かって来た。
それを見て、山南はトシゾウを方から降ろした。

「ねーちゃん!」

降ろされたトシゾウは、その少女へ走って近寄ると・・・

ゴン!

良い音をさせ、少女の拳がトシゾウの頭に落ちた。

「何処、行ってたのよ!心配させて!」

「うぅ、ねーちゃ・・・」

トシゾウは涙目で頭を抱えた。
そのやり取りを、ポカンと見ていた山南と桜華に少女は気がつき、慌てた様子で声をかける。

「あ、みっともない所をお見せしまして・・・
 私、このトシゾウの姉の のぶ と申します。
 この度は、愚弟がお世話になりまして。」

そう言って頭を下げる少女…のぶ。

「いえ、たした事ではありませんから。」

と、山南が言えば桜華も。

「えぇ、問題無いですよ。」

「この馬鹿が、ご迷惑かけたことは・・・
 って、あんた!その足は?!」

のぶがトシゾウの治療された足に気が付く。

「オジチャンにやってもらったんだじぇ!」

「お、おじ・・・」

桜華は一瞬、吹きそうになるのを口元に手を当て堪える。
山南も・・・

「た、対した事は、無かったのですが、念の為、消毒を致しました。」

何となく声が上ずっている。
そこに、のぶ の強烈な拳が・・・

ゴン!

トシゾウの頭に落ちた。

「てぇ・・・」

勿論、頭を抱えて座り込むトシゾウ。

「あんた!世話になった人になんて事を!」

直様、トシゾウの頭を抑え、一緒に頭を下げる。

「本当にごめんなさい!
 ほら、あんたも!」

「おりゃが何したって?!」

「あんた、わかんないの?」

と言って、のぶはまた拳を握りしめる。

「子供の言う事ですから、気にしてません。
 えぇ、気にしてませんとも・・・」

桜華は山南の言葉に・・・

『気にしてる気にしてる。』

笑いを堪えるのに、必死だった。
本当に、顔を真っ赤にして、必死に耐えた。

「本当にすいません。」

のぶ も慌てて頭を再び下げる。

「何か、おりゃ悪い事言ったきゃ?」

不安気に尋ねるトシゾウに対し、桜華は何とか笑いを堪え切り、頭を撫でる。

「まぁ仕方ないよね、うん。」

「そんな甘やかさなくて、良いですよ。
 どうせ何言っても堪えませんから。」

そんな のぶ の言葉に桜華は何となく同意したくなった。
自分にも弟が居たら、こんな感じだろうなと、思い始めていたから。

「さてと、トシ君も家族と合流出来たし、私達は戻りますか?」

「そうですね。」

先程の動揺?から立ち直った山南が答える。

「あ、長々と引き留めてしまい、すいませんでした。」

「いいえ、良いですよ。
 面白かったし。」

ボソリと言葉を付け足す。

「じゃ私達も失礼しますね。」

のぶ はトシゾウの手を取り、その場を去って行った。

「では、我々も戻りましょうか。」

「はい。」




おわれ

→おまけ
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ