Series『現桜』
□The 20th.「海(1)」
4ページ/7ページ
暫くすると、桜華だけがパラソルの所へ戻ってきた。
それに気がついた井上が声をかける。
「おや、葛木君だけかい?」
「えぇ、まぁ。」
「他の皆はどうしたんだい?」
「えっと、総司が近藤先生とやって来て、総司が『小魚とか見れる岩場見つけたから、一緒にどうですか?』って誘うから、近藤先生とつねさんとたまちゃんは、そのまま総司といっちゃいました。
んで、千鶴ちゃんとフラフラと歩いていたら、平助と一君がやってきて千鶴ちゃんを連れて行っちゃって・・・
なので一休みしようと戻ってきました。」
「そうかい、じゃ冷たい麦茶でもいれてあげようか。」
井上は桜華にアイスボックスから麦茶を用意する。
「ありがとうございます!」
桜華は礼を言って受け取ると、腰に手を当てて・・・一気飲みした。
「はぁ、美味しい♪」
こちらに興味なさげだった山南がその直後にクスリと笑いを漏らす。
それから少々呆れ返った声でやんわりと注意した。
「葛木君、あまり一気飲みはお勧めしませんよ。」
「あ、見てました?」
「えぇ、しっかりと。」
「あちゃ・・・」
本気なんだか、冗談なんだかわからない反応を示す桜華に山南は厭きれた笑み浮かべる。
そんなやり取りをハラハラするでもなく(普通?なら山南に対して、こんな態度をしようものなら・・・だが、桜華にだけは人一倍甘いのがバレている為)、楽しげに井上は見つめていた。
そこに・・・
「おや?」
井上はある方向を見て、声をだす。
桜華と山南もつられて、見ると男の子が一人で転んでいた。
「あらら・・・」
といいつつ、桜華は男の子に近づき、立たせてあげる。
その男の子の顔を見たら、酷く綺麗な顔をしていた。
「大丈夫?」
「おりゃ、男だから泣かねぇじょ。」
「お、偉いな。」
と言いつつ桜華が男の子の体を見ると、足に切り傷が。
「でも、血が出てるな、おいで。」
「だ、大丈夫だじぇ!」
「いいから。」
男の子の手を引いて、桜華はパラソルまで戻る。
「山南先生、この子の足、消毒してくれませんか?」
「おや、血が出ていますね。
そこにお座りなさい。」
素直に男の子が座ると、心配そうに井上が声をかける。
「大丈夫かね?」
「えぇ、砂浜の石で切った様ですね。
源さん、水を頂けますか?」
井上は水筒を山南に手渡す。
「坊や、少し痛みますけど、我慢してくださいね。」
「おう。」
男の子が答えると、山南は水をかけて傷に付いた砂を擦り洗い流した。
「!!!」
涙目になって声に鳴らない悲鳴が上がる。
桜華は心配になって声をかけた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫だじょ・・・」
声も涙声で有る。
「さ、これで良いでしょう。」
洗い流した後、消毒をし、まだ血が流れていたのでガーゼを当てた。
「すまないじぇ。」
「どういたしまして。
所でご家族の方は?」
山南が疑問を口にする。
そうすると男の子は・・・
「ど、何処かにいると思う・・・」
その答えに・・・
「はぐれちゃったの?」
「違うじょ!
ちょっと別行動してるだけだじぇ!」
『それは迷子と言うのでは・・・』
桜華は心の中で思ったが・・・敢て口にはしなかった。
その場に居た者達も同じ考えだったらしく、井上も・・・
「じゃ、そのご家族と待ち合わせを決めた場所はあるかい?」
「お、あるじょ!
[?]のマークが付いた所で行けって言われてるじょ!」
「[?]マークって言うと・・・案内所ですかね?」
「ですね。
確か、迷子センターも併設されていたはずです。」
桜華の疑問に山南が答える。
「じゃ、連れて行ってあげるしかないか。」
「そうですね・・・では・・・」
「山南さん、葛木君、頼むよ。」
「「はい?」」
二人で井上の言葉に聞き返してしまった。
「私はココで留守番しているから、二人で行ってきておくれ。」
「えっと・・・」
「仕方ありませんね・・・」
普段あまり主張しない井上が、こういう事を言うと、流石の山南も断れない。
「それでは葛木君、行きましょうか?」
「あ、はい・・・あ、そうだ。
僕、お名前は?」
「おりゃ・・・トシだ!
トシゾウだ!」
「え?・・・」
「トシ・・・」
「トシゾウ・・・くんかい?」
その場に居た三人が(桜華→山南→井上の順で)驚きの声を上げる・・・
そして実は今まで会話に参加してなかった、(実は寝ていたと思われた)土方がガバっと起き上がった。
それに気が付いた山南が態とらしく男の子…トシゾウの名前を呼ぶ。
「では、トシと呼びますね。」
「かまわねぇじょ!」
山南の意図に気が付いた桜華も。
「じゃ、トシ君。
待ち合わせ場所迄送ってあげるから、行こうか?」
視界の端に見える土方の様子に、笑いを堪えつつトシゾウの手を桜華は取った。
「おう!」
嬉しそうにトシゾウは桜華の手を握り返す。
「では、源さん、土方君、後は頼みますね。」
山南は複雑な表情の土方と満面の笑みを浮かべている井上に声をかけた。
「あぁ、行っといで。」
井上の返事を聞くと、三人はその場を離れた。
井上は三人の後姿を楽しそうに眺めながら口を開く。
「偶然と有るモノだねぇ。」
「源さん、何が・・・」
「別に私は何ともいってないだろう、トシさん。」
機嫌が悪そうな土方に苦笑する。
「それにしても、あんな楽しそうな山南さんは初めて見たよ。」
「そうか?」
「うむ。最近、思い詰めた様な表情をしている事が多いからねぇ。」
「・・・」
土方は井上の言葉に返す事が出来ず黙り込む。
「まぁ今日は気分転換になるといいが。」
「あぁ、そうだな。」
.